灯火を囲んで

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ある人のsansbyが頭から離れない。

BLの話だが、僕からしてみるとこれはBLではない。男と男が付き合うという事があの世界では全く普通の事で、というかそもそも男と女の境目がそんなにカッチリないのだ。
そもそも舞台がモンスターだらけの世界なので、別にそれにも違和感は無い。少なくとも僕は。

そのsansbyはクソッタレなsansby週間なるものの最中に投稿されたもので、その名の通り雰囲気が暗い。
一方も、またもう一方も、互いの関係の上で大きな課題を抱えている。
何しろこのクソッタレなsansby週間の名目は“お互いがお互いにとって最悪な相手すぎるsansbyを書こう!”というものだった。

そして、僕が大好きなsansby作品は3年間のある七日間投稿され続けた。

まず、第一章はそんなにクソッタレではなかった。
少なくとも一方は“もう無理ぽい”みたいな状態だったが、それをもう一方が支えようとしている。
しかし、限界な方はその助けを内心では拒絶していて、恐れている。
二人はいわゆるセフレ関係だと仄めかされていたくらい。

第二章も全然クソッタレではない。寧ろ幸せそう。
限界な方は、章の序盤で本当に一方からの支えや救いの手を怖がっている。
それをよくよく理解させられ、同時に共感した。
しかし章の終盤にもなるとふたりは和解する。
限界な方はできる限り自分がめちゃくちゃな理由を相手にもわかりやすいように話してみようとする。
要は、自分はそこまでめちゃくちゃじゃないからもう二度と心配するなと言いたかった訳だけれども、結局限界な方は説明するのが下手で裏目に出てしまった。
それでも最終的には、二人は互いを分かりあって、限界な方も素直に幸せそうでいる。

ただし、第三章は確かにクソッタレって感じだった。
ここから本格的に“お互いがお互いに相応しくない理由”を見せつけられ始める。
この作品はタイムリープモノで、限界な方はループに気づいているし知っているけど、記憶を維持できない。もう一方は全く知らない。
でも完全に同じループを繰り返してる訳ではない。
それで、第三章で初めてタイムリープが起こる。第一章と第二章の和解が無かったことになっている。あの幸せなやり取りを読者だけが覚えている構造。
これはある意味限界な方の視点でもある。もちろん限界な方は覚えていない訳だが“あったかもしれない世界”としてその存在を予想する事はできる。
それが限界な方の行動力をサビつかせている。
例えば分かれ道がそこにあったとする。
もう既に両方の道を歩いていたとして、その結果を経験していたのなら、もうどちらを選んでも同じだろうと投げやりになる。

第三章の話に戻る。序盤は幸せ。
限界な方ももう一方もやはりセフレ関係。
しかし限界でない方は立場的に限界な方とそういう軽薄な関係を結んでいると周囲に知られたくない。
ので、人目を盗んで交流している。
限界な方もこれはしっかり受け入れていて、身の振り方には気をつけている。
しかし、おじゃま虫がこれを多勢の前で暴露。とは言ってもそのおじゃま虫の言葉には信ぴょう性が全くなく、ただなりふり構わず適当こいただけにも見える構図。
しかし、立場のある方にとってはたまったものではなかった。
過剰に不安がり、緊張している立場のある方を見かねて限界な方は慰めようとするが、なかなか酷い勘違いされて罵られてしまう。
それには限界な方も怒り、二人は険悪になる。
立場のある方は限界な方に「気楽に生きれて良かったな」と吐き捨てる。
限界な方は本気で傷心してしまう。
これは第一章と第二章を見ていたこちらからしてもショックな物言いだった。出来事が違っただけでこうも感想が変わるものか。
初め二章では限界な方のメンタルに寄り添い、その理由を知ろうと献身的だったにも関わらず、今や限界な方を“気楽なやつ”と呼んでいる。
しかし、理解できない訳ではない。
よく考えてみれば、限界な方は心配されたらされたでそれに恐怖するようなめんどくさいやつだ。
つまり、立場のある方からしてみると心配するほどのやつなのか、そうではないのかわからない。
支えるのが正しいのか、それとも本当に支えなくていいのか。限界な方の拒絶の意味を慮ろうとするあまり、途方に暮れているようなものである。
それに加えて、第三章の出来事は立場のある方からしてみると正に心臓の止まるようなものだったはずだ。
限界な方もある一部分ではそれを理解しているのか、悲しみを表には出さずその場を離れる。
リセットの予感があったからだ、と仄めかしがあった。作者は抜け目がない。

第四章では、一変して二人は軽い関係である。
もちろんこれまでの章でも二人の関係は軽かったが、それには過ぎるほどの献身、相手を理解したいと思う心、思いやりが詰まっていた。
しかし今回では全く無い。
この作品で描かれるタイムリープはある意味芸術的な側面をもっている。
前章で起こったことが世界の無意識のうちに反映されていることがよくある。それはご都合主義的な要素には決してならない。寧ろ、悲痛さのスパイスになっている。
第四章にて、立場のある方は“子供”について話す。
欲しいらしい。
限界な方は納得する。確かに立場のある方は父性を持ち合わせていたし、子供も好きだったからだ。
僕からすると、それだけ相手のことを知っているというのも不思議だった。軽くは無い。
軽い関係を結ぶなら、そこまで知っている相手でない方が都合も良い。
とにかく、立場のある方は限界な方へ子供が欲しいか尋ねる。限界な方は自分の面倒さえまともに見れないのに子供なんて絶対無理で草みたいな態度をフランクに取る。
しかし、少し過剰に自分を卑下しすぎた。限界な方にとっては卑下などではなく本音だが、立場のある方にはそう聞こえた。
限界な方は第一章のようには語らない。
どうしてそこまで自分を評価しないのかと問われても、ほしくてもできないと言ってしまっても、それ以上の説明を求められても、なにも話さない。
むしろそれが彼にとっては普通のことのようだと僕は理解する。
話す代わりに、軽い関係性に甘んじた。

第五章は興味深い一章だった。
限界な方は今にも死ぬ。その瞬間を立場のある方に看取ってもらう。
この章では特に、限界な方がどれだけ立場のある方を必要としており、そばにいて欲しいと願っているかが明らかに描写された。
一方で立場のある方も限界な方の死に本気で泣いてくれる。限界な方は軽い関係には重すぎる告白を死ぬ直前でする。
ここにもまたタイムリープの予感があったから。どうせ誰にも聞かれず、忘れられるなら限界な方は立場のある方に愛していると言えるわけだ。
裏を返せば、そのような状況でなければ言えない。

この二人がどんどんややこしい問題に直面していき、それを見届けるのがこの作品だ。
あと十六章あるが、その全てがとても濃密で面白かった。
特に興味深いのは、限界な方をAceと設定していること。この時点から、二人の関係はややこしく、複雑で、多層的な訳である。
僕は別段良い目をもっている訳ではないが、少なくともこの作品は僕にとって一生忘れられないものだった。
とにかく心理描写が凄まじい。キャラクターが確かに生きて活動しており、倫理的に生活しようと躍起になっている。
作者の人間観察力は素晴らしいと思う。

そういう僕も、このお題を見て自分でもsansbyを書いてみた。
これが創作の素晴らしいところだ。誰かの創作物がまた誰かの創作の糧となり、種となり、時に血肉となる。

11/8/2025, 9:25:29 AM