東条 誠

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今日は七夕だ。
今夜は蒸しているからか、星のちらちらと光るのがぼんやりとしか見えない。天の川は、この街では期待出来そうになかった。
今日。本来なら、事前に彼女を誘って七夕祭りに行って……彼女と2人で七夕飾りを見たいと思っていた。多忙な日々を過ごしていたせいで、七夕祭りに気づいたのは金曜日だったが。
彼女というのは、8駅先に住んでいる一つ下の女の子だ。笑顔が可愛らしくて、明るくて快活な子だ。彼女とは元々ネットで知り合い、ネット上で付き合いを始めた人だった。
忘れもしない、あの晴れた6月の日。あの日に、初めて会った時だ。元から性格も声も可愛らしく愛おしく感じていたが、初めて会った彼女の笑顔に私は再び恋に落ちたのだった。
私は胸がときめくのを、その時確かに感じた。
彼女と触れ合うのは何となく恥ずかしくて、手は繋げなかった。だがプリクラを撮ろうと、暫く会えないだろうから写真を残そうと言った時に流れで抱き締めるような写真を撮ったのだ。
その時、抱き締めた時に香ったシャンプーと柔軟剤の仄かな甘い香りが愛おしくて。私の腕の中で照れたように笑う表情も、細い肩の揺れすらも可愛らしがった。暫く抱き締めていたかったが、そうもいかないので逸る心臓を抑えながら撮影ブースを出たのを確かに記憶している。
私は元来、誰かを好きになるということが苦手だった。と、言うよりは、恋が分からなかった。
初恋の子は、幼稚園の頃からの幼馴染。然し今となっては、あれは恋慕だったのか深い友愛だったのかはもう分からない。
だがきっと、今は彼女に恋をしているのだろう。
私が好きな、彼女に。私を隣に立たせてくれる愛しい人に。
愛してる、なんて気軽に言えるのは軽い関係なのだろうと知った。その反面、好き、大好きは言うのも少し恥ずかしいことなのだと。
私は親友と距離が近い、と言うよりゼロ距離の時が多かったため、正しい距離感が分からない。だけど。
きっと、あの大きな祭りに行く時には人が多いからと彼女と手を繋げるだろう。
その日がとても楽しみで、その日を考えると今から心臓が高鳴ってしまうのが分かる。あの祭りでは、花火が上がる。2ヶ月後の祭りは、付き合って3ヶ月を少し過ぎる頃だ。その時、また彼女に思いを伝えよう。花火の鮮やかな光を眺めながら、川沿いの芝生に2人で座って夜空を見上げよう。
彼女の夜空の下での笑顔を見て、きっと私はまた恋に落ちる。
今宵は織姫と彦星の逢瀬の日だ。

きっと私たちの逢瀬は、9月の祭の日になるのだろう。
私達の七夕はその日になるのかもしれない。

7/7/2024, 2:20:10 PM