一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・喪失に対峙する。

 だだっ広く、何もない、石ころの地面と空だけの、そんな風景を求めて、僕は旅に出ました。
 あの大惨事のせいで僕は全部を失ってしまったから、その喪失を別の虚無で埋めたいと思ったのです。
 お供は、唯一僕に残されたぬいぐるみのウサギさん。僕と一緒に寝ていたから彼は助かった。そうでなければ……、僕は本当の本当にひとりぼっちになっていたでしょう。
 彼はなかなかに頼りになる相棒で、耳聡く風を読むので、思ったよりも早く目的地に着きそうです。
 今日は海辺でサンドイッチを食べました。サバサンド。揚げたサバが挟んでありました。
 ウサギさんは食べたくないと言って、防波堤のテトラポットで遊んでいました。海の波が寄せてテトラポットに弾ける音に合わせて、彼の耳はピョコピョコ動いていました。
 僕たちの目指す風景にたどり着いたとき、彼の耳はうなだれるのでしょうか? それとも何かを探そうとアンテナを動かすのでしょうか?
 旅を始めて数カ月、最近僕は思うのです。虚無を探す僕たちですが、そんなものは見つからないかも知れないと。

テーマ; 風景

4/12/2025, 11:03:33 AM