はてさて困った、どうしたもんか。
机上には「進路希望調査」と書かれた紙。
ほとんど埋まったそこにぽつんと空いた空間、
「将来やりたいこと」の枠。
この、こいつだけが埋まらずに小一時間。
クラスメイトは全員とっくに書き終えて、さっさと提出して部活に行ってしまった。
あまりにもペンが動かない自分に苦笑して、
「書けたら出しに来いよ」と言って担任が出ていってから、早一時間。
思わぬ伏兵と、丸々二時間も相対していた。
自分だって、まさかこんなとこが書けないとは思いもしなかったのだ。
そりゃあ、事前に考えていたわけではないけれど、書き始めれば何か浮かぶと思っていた。
ところがどっこい、なぁんにも浮かびやしない。
将来やりたいこと、つまりなりたいもの、就きたい職業。
これっぽっちも思いつきやしなかった。
「将来の夢がないの?」と、皆様仰るだろうか。
答えは一択、あるわけない。
だってそうだろう、夢なんか見たって叶いやしないのだから。
子供の頃に考えていたなりたいもの、実際それになるのは至難の技だ。
それに、夢を叶えるにはお金がいる。
いい大学に入るために死に物狂いで勉強して、大学に入ったらまた勉強、卒業したら就職先を探して……
大学だって、国公立ならまだしも、私立ならとんでもないお金が掛かる。
お金が掛かっても入れればいいが、そもそも受験に失敗する可能性だってあるのだ。
皆夢のことなんかそっちのけで、机に齧り付く。
そんなんやってる内に、夢のことなんか頭の隅っこにも置いておけなくなる。
夢でお腹は膨れないし、理想で物は買えないから、現実を見て就職する。
そうして、世の大多数の人間は、取り替え可能な社会の歯車になって生きていくのだ。
子供の頃の将来の夢を叶えられる人間はひと握り。
さらに、それで成功する人なんざ、指先にちょんと乗る程度だ。
それでも、夢に向かって努力できる人は偉い。素晴らしい。できる人間だ。
自分はダメだ、努力もこつこつも嫌いで、欲に流されやすく芯が弱い人間。
こんなんが将来の夢を持ったって、その重みで動けなくなってしまうだけである。
本当は自分にだって将来の夢、なかったわけではない。
だけれど、勉強と人間関係の波に揉まれすぎて、どこかに落っことしてしまったようである。
今ではちっとも、影も形も思い出せない始末だ。
さてさて、真上を向いていた時計の長針は、今や真下を向いている。
二時間半の格闘の末、軍配はどうやらあちらに上がりそうだ。
本当に全く、恐ろしい同調圧力と平均化の社会だ。
こんな社会で生きていけなんて、一体。
[どうすればいいの?]
11/21/2023, 3:35:31 PM