「十年後さ、またここで会おうよ」
「キザっぽキモすぎ」
「うぜー」
よくある再会の約束だった。離島で育った二人の少女は、その後順当に地元を離れ、十年がたった。
片方の少女は有給を使い、約束の少し前から準備を始めた。
準備というのは、そう、舟を借りたのだ。
急速な温暖化の影響でふるさとが海に沈んだから。
それでも行こうとするのは義理堅さなんかてはなく、単に彼女はかつて地元の空だった場所での再会という如何にもなイベントに胸を踊らせているだけだった。
当日、女は舟を漕いだ、櫂でひたすら。
島への道に浮きで道ができていた。かつての地元を私のように見に来る人間は少なくないのだろう。
やがて、島らしきものが海底に見えてきた。
そこに舟があった。
お互い、大概ばかだよなぁ。
約束した地が海に沈んだ、なんて反故にしても仕方ない再会にふたりは立っていた。
……ひさしぶりという言葉は口の中で飽和している。
『まじで来るか〜死ぬほど待ったわ』
船の中には白骨化した遺体と、置き手紙。
死ぬほど待ったやつが死んで待ってるなんて笑えなすぎるジョークだ。
最近連絡がつかなかったのはこういうことか。言ってくれればよかったのに。いや、知っていたのに目を逸らしていたのは私だった。持病で長くないって、昔から言われてた、そうだった。
しばらく黙って舟を寄せていた。鎖を外して陸に持ち帰ろうとも思ったが、まあ、まあ……。
女は手を伸ばす――。
二隻の舟が同時に転覆したのはその直後だった。水飛沫は空高く、女と女だったものは海底よりも深く沈んでいった。
時の流れに風化しない者が生き残る。座礁した船は大海に往かない。
じゃあ、この話はこれでシュウソウ……なんつって。
【この場所で】2024/02/11
舟葬/終奏
2/11/2024, 1:24:53 PM