うんと昔に、怪我をした小鳥を拾って世話をしたことがある
羽の付け根が切れていて飛ぶことが出来ない鳥だった
俺と同じだと思った
その小鳥が死んでしまった時は俺もいつか自由を知ることなく消えるのだと、そう思った
それから100年ほど経った時、ようやく自分が異常な存在であると実感した
兄王が義姉上と共に事故で亡くなり、王太子がまだ幼かったため成人するまでの代替品として即位した
およそ7年の治世ののち、王太子に王位を継がせた
それから隠居生活をして10年、現王は「叔父上は老けませんね。本当に歳をとっているか不思議なぐらいだ…」と首を傾げて言った
童顔なだけだろう、と軽く笑い済ませていた
我が国の民は寿命がそれなりに長いからだ
龍神と精霊の間に生まれた龍人族の末裔と呼ばれるだけあって、皆何事もなければ300年ほどは生きる
それでも、100年も経てば見た目は青年から少し老けていく
120歳の誕生日が近いとき、パーティーの招待状を渡しに来た甥は「叔父上は老けなさすぎです、絶対何か特殊なことがあるに違いません!!」とズイズイ迫ってくる
“まぁまぁ、病気でないのならそれでいいじゃないか。
お邪魔します、良い場所だね。空気が綺麗だ。”
さく、さく…
甥の後ろに珍しく人が立っていた
柔らかな朝焼けを纏ったような髪と目
子守唄のように響く中性的な声
初対面なのに、ほっとしてしまうような存在
不思議な人だな…
「あ、叔父上。こちらグランローヴァ様です!
もちろんご存知ですよね?僕たちにとってかなり伝説の
存在ですよ!!今回叔父上のことを調べて頂こうとお連
れしました。」
なるほど、甥のテンションが高いのはそういうことか
は?
ちょっと、おい、甥、まて
「は??」
ん?え??なんて?えーとああと、、?グランローヴァさま
グランローヴァ、グランローヴァ………
…なぜ!?
建国記に記された時から6000年は現れた痕跡がなかった、
まろぼし、じゃない幻の存在と言われていた??
甥がテンション上がるだけで済んでることに驚くよ
器がしっかりしてる、良い王だな……
「ん゛ん、げほっ……
初めまして、グランローヴァ様にお会いできたこと
誠に光栄でございます。
前王のファイリアと申します。」
“うんうん、よろしくね〜。君のことはこの子からしっかり
と聞いたよ。結論から言うと君は不老不死だね。
先祖返りとでも言うのかな?龍神の加護が強かったんだろ
うねぇ。”
「「不老不死」」
「「龍神の加護」」
「叔父上が?」「俺が?」
“わ〜お、息がぴったりだね♪”
甥と目を合わせ、ただ呆然とする
不老不死ってことは死なないし、もう老けないのか
龍神の加護……そんなのが俺にあると周囲にバレたら、また王にと担がれてしまう
「 、俺はもう王としての責務を全うする気はないしこん
なことがバレれば一生玉座に縛り付けられてしまう。
分かるな?俺は旅に出る。今聞いたことは絶対に口外す
るな。たまにお前や姉たちに会いに来るよ。」
決断したならさっさと行こう!甥も理解してるだろうからとりあえずさっさと行こう
取り返しのつかないことになる前に
こほん!
小さく咳払いをしたのはグランローヴァ様
“丁度良いところに同じく不老不死の者が旅をしてるんだけ
どな〜。一緒に旅をしてくれる仲間が増えたら嬉しい
な〜!”
こちらを見ながらわざとらしく話される姿におもわず笑ってしまう
「グランローヴァ様、もしよろしければ貴方様の旅に同行
する許可をいただきたいです。料理や洗濯、何でもやりま
す。」
“えっ”
ん?
“料理や洗濯……!?最高じゃあん!是非頼むよ!!”
すごい嬉しそう、良かった
握手をして旅の仲間となった俺たちに甥が近づいた
「叔父上、父上の亡き後我が国を治めてくださったこと…
一生忘れません。姉上や弟の風除けをしてくださったの
も、叔父上ですよね?ありがとうございました。
叔父上とグランローヴァ様の旅路が平穏であることを
遠くから祈っております。お元気で…」
「ありがとう、行ってきまーす!」
はっちゃけすぎたかな、と思いながらもさっと荷造りをしてさっさとグランローヴァ様と旅立った
元々こんな性格なのだ、しょうがない
“そうだ、これからはアーレントと呼んでよ。
僕の名は蒼月 アーレント ロールズセン。
よろしくね!気軽に話そう、ファイリア♪”
「よろしくお願いします、アーレント様。」
ふわりと軽い足取りで行くアーレント様はまるで自由な鳥のようで、ふと昔に世話した鳥を思い出した
自由だ
今の俺は自由になった
自由になることなく消えると思っていたら俺の命の炎は消えることなく燃え続けると知った
この方とこれからどこへでも行けるのだと気がついた
じわ、と目頭が熱くなる
上を向いて空を見た時、広い穏やかな空が近く感じた
俺は飛べない鳥を連れて飛べる存在になろう
少しでも見たい景色が見られるように
ファイリア ロールズセンの記憶
11/11/2024, 4:00:27 PM