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時計の針


 何も無く、退屈な病室の中。
 僕はいつも、時計の秒針に耳を傾けていた。
 カチ、カチ、という、たったそれだけの小さな音でも、聞いているだけで落ち着けるのは、自分の存在を考えなくて済むからだろうか。
 それとも、毎日同じ時間に現れる、あの美しい少女を待っているのだろうか。

「ねえ、京平くん」
「なぁに? 皐月ちゃん」
「私、明日からはもう、ここに来られなくなるの」
「どうして?!」
「あなたを、迎えに行くから。少しの間だけ、待っててくれる?」
「……絶対、迎えに来てくれる?」
「もちろん! 約束よ」
「……わかった。皐月ちゃんが迎えに来てくれるまで、ちゃんと待ってるよ」

 これが、少し前の記憶。
 僕は、植物状態のまま、夢の中に出てくる少女、皐月ちゃんを、いつもいつも時計の針の音を聴きながら待っているのだ。






「京平くん、迎えに来たよ」
 一ヶ月ほど経過して、迎えに来てくれた皐月ちゃんは、何も変わらず、穏やかで元気な、優しい笑顔を向けてくれた。
「約束、守ってくれてありがとう」
「破るわけないでしょ? ほら、一緒に行きましょう」
「どこに?」
「誰にも邪魔されない、幸せな世界に」


 そして、僕は自分の体を捨てた。
 両親の悲しむ顔は見たくない。そう思っていたから、ぽっくり逝くのも大切だ。
 そのまま僕は、時計の針だけを聞き、その音が遠ざかっていくのを感じながら、静かに息を引き取った……。

2/7/2026, 1:15:05 AM