私は、静かに目を開いた。
天井近くにある、唯一の窓から、朝の光が差し込んでくる。
ここは、塔の上にある小さな王廟だった。この石造りの建物の中には、先祖を祀った正面の祭壇と、今私が腰掛けている椅子、水差しの乗った小さな卓しかない。
即位を控えた前夜は、王子の位を返上し、この廟に籠もるーー国の決まりにより、今だけは、私はどんな身分でもなく、全ての狭間にいた。
昨晩から、一人ここで過ごしている間に聞こえたのは、遠くで獣の吠える声、そしてーー、
「あなたたちは、私を受け入れていないのだな」
私は、祭壇に向かい、口の端を歪めて笑った。
しんと冷えた闇の中にいると、過去の王たちが私を責める声が、呪詛のように染み出してくるように感じたのだ。
それは、愚かな王になろうとする子孫を咎める賢王たちの声が本当に届いたのか、はたまた私の中に、まだためらう気持ちが残っているのか。
「だが、後戻りはできない」
私は、豪奢な衣の裾を払って、立ち上がった。
確実に王位を継ぐために、兄を陥れ、父王の死期が早まるように画策した。少しずつ準備を進めてきた隣国との戦も、やがて始まるだろう。
自分のしてきたことの重みは、誰よりもよくわかっている。これから、大きな波が襲いくるだろうことも。それでも、成し遂げたいことがあった。
王廟の扉が、外から開いた。
「即位式のお時間です」
私は頷いて、足を踏み出した。
風の音に混じって、どこかで時を告げる鳥の声が、聞こえた気がした。
『狭間の終わり』
(嵐が来ようとも)
7/29/2023, 2:09:58 PM