夜の祝福あれ

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光と霧の狭間で

霧が町を包み込んだ朝、遥は駅へ向かう道を歩いていた。白く霞む視界の中、街灯の光がぼんやりと浮かび上がり、まるで異世界に迷い込んだようだった。

「また霧か…」と呟いたその瞬間、遥はふと足を止めた。霧の向こうに、見慣れない小道が現れていた。昨日まではなかったはずの道。誘われるように、彼女はその道へと足を踏み入れる。

小道の先には、古びた洋館が佇んでいた。扉は半開きで、中から柔らかな光が漏れている。遥は躊躇いながらも中へ入った。

そこには、一人の青年がいた。白いシャツに黒いベスト、時代錯誤な装いの彼は、遥に微笑みかけた。

「ようこそ、霧の狭間へ。ここは、忘れられた記憶が集う場所です。」

遥は戸惑いながらも、青年の言葉に耳を傾けた。彼の名は黎(れい)。この館は、過去に迷い込んだ人々の記憶を映す場所だという。

黎は遥に一冊の古い日記を手渡した。そこには、遥が幼い頃に亡くした姉・紗月との思い出が綴られていた。遥は涙をこぼしながら、忘れていた記憶を一つ一つ読み返した。

「記憶は霧のように、時に隠れ、時に光に照らされて現れる。君がここに来たのは、きっと意味がある。」

黎の言葉に導かれ、遥は過去と向き合う勇気を得た。そして霧が晴れ始めた頃、彼女は洋館を後にした。

振り返ると、そこにはもう何もなかった。ただ、朝の光が霧を切り裂き、町を照らしていた。

お題#光と霧の狭間で

10/18/2025, 1:33:53 PM