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《安らかな瞳》

 ぽっかりとしたその空虚な瞳は、どこか安らかに感じられた。もう像を結ぶことのない、その墨色の瞳。

 青空の雲をその目に映して、綺麗だね、と笑うこともない。
 枯れた向日葵をその目に映して、残念だね、と悲しむこともない。
 降り始めた雪をその目に映して、寒いね、と手を擦ることもない。
 隣を歩くあの男をその目に映して、大好きだよ、とはにかむこともない。
 
 僕をその目に映して怯える君は、もうこの世界のどこにもいない。

 カラン、と冷たい音がして、濡れた僕の手からナイフが滑り落ちたのが分かった。
 足元に倒れる君を見下ろす僕の瞳には、赤い色が閃光のように散らばって、てらてらと眩しく映っている。それでも心はどこか穏やかで、僕のぽっかりとした黒い瞳も、彼女と同じに安らかに映るのだろうと思った。

3/14/2026, 10:56:13 AM