夜が怖いのです。この物語の続きが、明日も生きているかと不安なのです。
星明かりの照らす文机で、こんな手紙を書いているのをあなたはどうかしているんじゃないかと思うでしょうね。でもどうか許してください。
この夜と仲良くなって、わたしが夜に沈んでしまったら、いまわたしの中に思い描いた言葉たちは、もろとも消えてなくなってしまうんじゃないかとわたしは心底怖れているんです。
眠るのが怖いのです。いまここにある表現を、ここにある一文を、明日もわたしが覚えていられるとお思いですか? すべてを吐き出して、すべてを書き綴らないうちに眠りにつくことなどできましょうか。
そうしているうちにも言葉はどんどん押し寄せてきて、この細く小さな筆先では留めきれないくらいに溢れてくるというのに。筆先からこぼれたインクは紙の上にいくつもの黒い星を作るから、わたしはそれを消したり、ときには書き加えたりしながら物語の体裁を繕わなければなりません。
起きているのが怖いのです。こうして眠れないうちに、生きているわたしの物語と、頭の中にいるわたしの物語が重なり合って、どちらを書き綴ればいいかわからなくなるのが怖いのです。
もしかしたらわたしは、昨日のわたしの出来事を書いているのかもしれませんし、明日わたしの身に起こることを書いているのかもしれません。眠れないわたしは、いつの夜のわたしを筆に濡らしているのか、あなたはご存知かしら?
夢を見るのが怖いのです。夢の中で物語が勝手に動き出して、頭の中を飛び跳ねて舞台の置物をぐちゃぐちゃに掻き回しでもしたら、目が覚めた時にわたしはどこから続きを書き始めればいいかわからなくなっているんじゃないかと不安なのです。
まるで月明かりに照らす影絵芝居のように、遠い異国の英雄譚と混ざり合って、空想上の怪物と戦うお話になっていたら、どんなにか気が楽でしょうね。そうしたらわたしは怪鳥の巣のゆりかごの中で柔らかい鉱物を枕に眠りにつくでしょう。そのときにこそ、本当の意味で愉快な夢を見られるのですから。
こんなことを書き連ねている暇があったら、早く物語の続きを書きなさいとあなたは笑うでしょうね。でも、そんなことがどうしてできましょうか。わたしが思い描いた物語は、この手紙の中にこそあるのですから。
4/20/2025, 11:54:45 PM