22時17分

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雪を待つ駅のホームに、しゃがれ声の列車がやって来た。

昭和初期の時代から活躍し続けた鉄道である。
今のように電気で自走するような車両ではない。
墨の泥で塗り固めたような、黒々とした外装で、煙突からもくもくと、白い煙を吐き出し続けている。

動くこと自体稀有に近い様子だが、それは外装だけの見た目のみである。
石炭ではなくディーゼルエンジンで動いている。このモクモクとした煙も、実はハリボテ。ただの水蒸気である。
それでも、今の世の中では、電気代がかかることが特権扱いとなっているため、エンジンも車体も馬鹿にされている。

田舎のホームである。雪のカーペットはまだ敷設されていないが、寒さだけは一人前である。
都会へゆくための唯一の足である。
普通なら閑古鳥が鳴き喚いている石段のホームだが、今宵は大多数が待ち望んでいる。

待望の列車が来、大多数が乗り込む。
猶予のある時間が過ぎ、山を越えるような嘶ける唸り声を上げて、古びた列車はホームから発車した。
ゆっくりと、スピードを上げて巣立っていく。

ホームに一匹残し、列車は去っていく。
大多数の正体は寒さに弱い人間であり、一匹のそれは寒さに強いペンギンである。
ペンギンは、雪を待つ駅の駅員だった。

明日になれば、この地方には雪が降るという。
大豪雪だと。天気予報は真っ赤な警告を出し、ゴチャついた日本語ばかりを発している。
古い時代からすれば、壊れたラジオ。
周波数を間違えて今さら玉音放送をしている感がする。

ペンギンの駅員は、ゆく列車を見送るように、ちょっと短めな手で帽子の庇を改めた。
そして、ペタンペタンと可愛げな足音で寂しげに歩いていく。駅員室に戻る頃には、ホームは今年の雪を知るようになる。

行く列車があれば来る列車がある。
誰も知らない、降り積もるホームに先ほどの列車が帰ってきた。
誰も降りない……と思いきや、乗客一匹を降ろした。

「きゅう」

白いアザラシは、ザリザリと、十センチの雪をかき分け、ペンギンのところにやって来た。

「今年も来たのか」
「きゅう!」

白いアザラシは元気よく返事をした。
雪上になりゆくホームを、雪に強いペンギンらは腹ばいでスイスイ滑っていく。
シンシンと降り積もるなか、二匹は雪上家である駅員室にて夜を過ごす。
一方は寂しくなんかねぇぞと笑い酒を飲み、一方は今年の冬こそかまくらを作って過ごしたいと、懸命に鳴いているらしい。

12/16/2024, 9:24:43 AM