▶43.「愛を注いで」
42.「心と心」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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あの山、と示された山についたのは日暮れだったが、
その特性から夜目がきくため、山歩きも月明かりで充分だ。
なので人形は物陰で夜を待ってから入山した。
見える範囲に灯りはつかなかった。
村の祭りで出会った青年は入山規制があるように話していたが、
そこそこ枝が払われている。
山に入る人間を成人に限定しているのかもしれない。
✕✕✕は、ひとまず山の中腹を目指し歩き始めた。
夜の山は妙な静けさに包まれていて、
人形の歩く音が周囲に容易く響いてしまう。
それでも✕✕✕は一定の速さで黙々と足を運んでいく。
木々の間を抜け、岩をよじ登り。
中腹に差し掛かり勾配がきつくなってきたところで、これ以上の登山は消耗が激しいと人形は判断した。夜明けまで身を隠せるような場所を探す。
すると、岩のくぼみに紛れるような小さい岩穴を見つけた。
サイズこそ小さいが切り口が滑らかで明らかに人工物だ。
身をかがめて入ると、中は立てるほど広い。
(もしやここが噂の施設なのだろうか)
奥まで行くと、今では見られない機器の数々が収められた部屋についた。
何に使うかは分からない。
ただ青年の話では武器づくりの材料になる金属を掘っていたというから、
それに関係したものかもしれない。
部屋の中央には、腰の高さほどで柱状の機械。
天面には手の形にくぼみがあり、なにか書いてある。
この国で使っている字体と少し違う。古いものだろう。
『愛を注いでください』
(手形があるのだから、ここには手を置くのだ。だが愛とは…そういえば、赤子を育てる時は親の温度を感じさせることが重要だと聞いたことが)
試しに手だけ放熱して温め、手形にあてがってみる。
しばらくそのままでいると、
機器に電源が入り、電子音声が流れた。
「承認されました」
12/14/2024, 9:41:22 AM