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安らかな瞳


波を追いかけて走る。
ひときわ大きな波が引いて足元を砂が流れたあと、濡れた砂浜がうぞうぞと動きだした。
小さな貝があちらでもこちらでもいっせいに砂から這い出してひしめきあい盛り上がっていく。これだけの量がどうやって埋まっていたのか。
見渡す限りのそれらがパチリパチリと口を開けると中で目玉が瞬いた。
きょろきょろと辺りを見回し、見つけた、とでもいうようにこちらを注視してくる。
あっという間に大量の目玉に囲まれてしまい、恐ろしくなって海岸から離れてホテルのパーティー会場に戻った。
ちょうど新しい皿が運ばれてきたところだ。巨大な閉じた二枚貝が花や果実で飾られている。
中央テーブルに安置されたそれにシェフが液体を注ぐと、ごつい貝殻がゆっくりと口を開けた。
中にはやはり目玉。
見たこともないような安らかな瞳と目が合った。

3/15/2024, 9:39:37 AM