第三十六話 その妃、怖気付いて
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「僕を除け者にするから、そういうことになるんです。今度からはちゃんと、僕も頼ってくださいよ」
「たまにならね。本当にたまになら」
「……いや、念押すほどです?」
「気が向いたら。時と場合にもよる」
「そんなに僕って役に立たないのかな⁈」
「な〜んか足引っ張られそうなのよね。こういうのなんて言うんだったかしら」
「ポンコツ?」
「そうそうそれそれ!」
「……どうしてそんなに、息ぴったりなんですかねえ」
その先を追求する視線を、至近距離で向けられているロンには、一先ず犠牲となってもらうことにして。
「二人には申し訳ないのだけど、作戦は中止にするわよ」
確かに、最悪の場合を想定してはいた。勿論、ここで命を落とすかもしれないことも想定済みだった。
……しかし、それを守り雛が代わってくれた。ということは、下手をすれば痛みを感じることもなく、死んだことさえ気付かないまま息を引き取っていたのかもしれないのだ。
「……中止って、どうしてですか? まさか僕が絡んできて面倒くさいからですか⁉︎」
「そう思うならちょっと離れてくれない?」
この愛すべき馬鹿を守る命のために、鍛錬を欠かせたことはない。人数の把握など、息をするようにわかっていた。
……その手練れ以外は。
その人物を呼び寄せた人間も、全く見当がついていない。
あれだけの騒ぎに乗じ、数え切れないほどの人の夢を渡り歩いた。人の記憶の中の瞳を通じて見ていたにもかかわらずだ。
……その場にいなかった?
存在を消している奴がいる?
それなら尚の事おかしいだろう。
騒ぎを起こした妃を襲うのなら、普通その場から何かしらの情報を得ようとする。それが全くないというのは、ほぼ零と言っていい。
ようは、何が言いたいのかというとだ。
(……私の、能力を知っている人物がいる。それも事細かに)
夢とはいえ所詮記憶の一部分。覗かれてしまうこと初めからわかっていれば、記憶の操作などたやすいだろう。それだけの手練れとなれば。
「お言葉ですが、折り紙の首が取れたくらいでやめるんです?」
「……随分な言い方ね」
「今まであれだけ豪快に、やりたい放題やられていましたので。今頃になって怖気付いたのかなと」
「あら。今更文句でも言うつもり?」
力の差が有り過ぎる。此方の手の内がバレている。
そのような状態では、仲間の命を守り切れない。
……そう思っていたことが、次の瞬間一気に吹き飛んだ。
「いえ。そういうところ、結構気に入ってたんで。というか好きですよ、僕は」
「「……え?」」
まさかの、あのロンがそんな事を言い出したから。
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3/5/2024, 2:42:59 PM