織川ゑトウ

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『明手(あくしゅ)』

僕たちには子供がいたね。
何年前の話しか、忘れてしまったけれど。

「お父さん!お母さん!」

娘の名前は桜だった。名のとうり、桜のような笑顔を咲かす娘だった。
学業も、運動も、文武両道だったね。
君の名前…僕の妻の名前は椿だった。

「ふふ、今日も素敵よ」

あんなに、幸せな家族だったのになぁ。

「君が浮気したんだろ!」
「貴方がしたんでしょ!」

ささいなことから喧嘩になって、ついには浮気しただの言い出す事態。

「お母さぁん…お父さぁん…辞めてよぉ…」

桜には辛い思いをさせてしまったかな。
そうやって、色々引きずって早10ヶ月後。

君達が、死んでしまったんだよね。
交通事故。酔っ払ったおじさんに退かれたんだ。
幸い僕は一命をとりとめたけど、君達は即死。
時々考えるよ。なんで僕だけが生きてしまったんだろうって。
だから、罪滅ぼしにこの場所に来てるんだ。

春、桜と椿が咲く頃に。君達の墓場に来ている。
手向ける花としては少し珍しい桜と椿を持って。
もう、触れることの出来ない手を墓石に触れ、思い出す。

「ずっと、ずっと愛しているからね」

嗚呼、何故だろう。墓石は冷たいのに。胸の奥が暖かい。

「「私たちもだよ」」



お題『手を取り合って』

織川より。
皆様こんにちは。毎度お馴染み織川ゑトウです。
お久しぶりですね。前にも一度お伝えいたしましたが、受験生なので週末、休日あたりの投稿が多くなるかと思われます。ご理解のほど、よろしくお願いいたします。

7/14/2023, 1:10:12 PM