海月 時

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「良い曲だね。僕は、結構好きだな。」
こんな暗い曲を、君だけは好きだと言ってくれた。

「ミュージシャンだなんて、馬鹿な事を言うな。」
幼い頃から夢見ていたものは、誰かの言葉によって、音を立てて崩れた。でも、悔し涙は出なかった。きっと薄々気付いていたんだ。私には、誰かに勇気を与える、そんな音楽は作れないんだと。だから、これで良かったんだ。早めに気づけて良かったよ。でも、ギターも作曲ノートも捨てる事は出来なかった。

そんな私を見て、幼馴染の彼は泣いてくれた。私の曲をいつも聴いてくれた、唯一のファン。
「この曲、今までで一番好き。」
そう言って、どんな暗い曲でも楽しそうに歌っていた。
「ねぇ、大人になったら、二人で音楽を作ろうよ。僕が作詞、君が作曲。良いでしょ?最高の二人になるよ。」
そんな叶わない夢を笑って話していたっけ。でも、ごめんね。もう君と夢を語る私は、死んじゃったみたいだ。
「そんな事、言わないでよ。生きてるなら、命があるなら、叶わない事なんてないでしょ?」
彼だけは、夢を諦めなかった。だから私も、もう一度頑張ろうと思ったよ。でも、もう立ち直れない。

だって、君が死んじゃったんだから。

私がもう一度夢を目指そう、そう思い立って、真っ先に彼の家に向かった。しかし、彼の家には彼は居なかった。出てきた両親は、目を赤くしていた。そして、彼の身に起きた悲劇を話してくれた。私は、それを聞き、その場に座り込んでしまった。そして、夜が明けるまで泣き続けた。

今日は、彼の葬式の日。私はギターを持って、出かけた。そして、彼の遺影の前で、ギターを奏でた。すぐに、大人が止めに来たけど、私は奏で続けた。哀愁を誘うような曲を。彼が好きだと言った曲を。彼を悼むレクイエムを。

11/4/2024, 3:12:58 PM