「消えた星図」
私はずっと星が好きだった。
空に光る星にはきっと夢が宿っている。
命も理想も考えも、星が担った力はきっと人に希望を
与えること。
けれど私は実際の星をみたことがない。
ずっと星図を電気に透かしてみたり回してみたり、
部屋のなかでしか見ることが出来ないものだったけど
星は十分に私に希望を与えてくれた。
私の親はきっと過保護なのだろう。
家のそとに出ることはほとんどなくて学校だって行かず、お母さんが勉強を教えてくれる。
学校に行きたかったと言えばそうで、けれど私は今のままで十分。
だって外は危険だってお母さんが言うから。
私の世界はこの家の一部屋だけ。
カーテンを締め切った部屋で、鍵のかかった扉。
そとに行くことは許されなくて、トイレやお風呂だってお母さんと一緒。
これは愛されているからだと、私は分かっているよ。
お母さんはきっと、私を愛してくれている。
だから私は今のままでいい。
お母さんはいつも泣いている。
私に会いに来るときはいつも、笑顔。
だけどたまに。本当に稀にお母さんが私を叩く。
痛いし、苦しいし、でも私は大丈夫。
お母さんも辛いんだろうね。
お母さん?
今日は1日お母さんを見ていない。
もう、夜。お腹空いた。扉の取っ手に手を掛けてみる。扉が軽い音を立てて開いた。
扉のそとの世界はゴミだらけだった。放置された服。
そのままのゴミ袋。
私は怖くなった。大好きなお母さんがどこに行ってしまったのか分からなくって。
私は怖かったけれど、一つ勇気を振り絞って玄関の扉を開いた。
空が広がった。夜空が美しくて初めて見るものだった
町を歩いた。裸足で。通りすぎる人達が私の事を見てくる。どうしてか分からない。
声をかけられた。深い青色の帽子に金色の星のようなバッチがついた服を着ている。けいさつ、だそうだ。
名前をきかれた。そうだ。よく考えてみると私に名前はなかった。お母さんはいつも私を「我が子」と呼んでいた。
私はけいさつに連れていかれた。
どうやら私は「誘拐」されていたそうだ。
とても私が小さい時、病院で働いていたお母さんが
私をひっそりと拐ったらしい。
お母さんは、昨日警察に自首したそうだ。
だからお母さんは二度と私の前に現れる事はない。
警察の人が書類をとりに裏にいって、一人になった。
私は警察署を飛び出した。
町を歩いた。暗い方へ。灯りが点っていない方へ。
お母さん。どうして私を愛してくれたの。
お母さんはどうして泣いていたの。
お母さんはどうして私に名前をくれなかったの。
どうして。
お母さんは私を一人にしたの?
お母さんは私を嫌いになってしまったの?
下を向いて歩いていると視界のはしに光る物を見つけた。真っ暗な辺りを見渡すと、星が広がっていた。
「きれい。」
思わず口から零れ出た。
紙ではない星は凄く、凄く美しかった。
お母さんにとって、私はきっと星のようなものだったんだろう。
美しくて手に入れたくて仕方がないものだけど、手元に来ると本当の綺麗さを保てない。
星は夜空にこそ映える。
手元や電灯のもとにあったって夜空に浮かぶ星にはかなわない。
星は人をそのぐらい魅了する。
夢を理想を希望を持っている。
お母さん。
私は大丈夫。
お母さんがくれた愛を捨てることはしない。
お母さんが居てくれて楽しかった。
寂しいなんて思わなかった。
人と入るお風呂の楽しさも、勉強の大変さもたくさんの事をもらったよ。
お母さんはきっと、寂しかったんだね。
だから子供がほしかったんだね。
ごめんね。お母さん。
私はそとの世界に行くよ。
怖くないんだよ。星がいつでもそばで輝いているから
また逢えたら、
お母さんの寂しさを私が失くせたらいいなぁ。
10/17/2025, 10:17:34 AM