帰り道、知らない番号から電話がかかってきた。
宅急便だろうか。深く考えずに通話に出る。
「どうしてわたしを殺したの」
もしもし、と口にするより早く、耳に届いたのは怨嗟の声だった。
「……気づいてなかったのかよ。アンタ、とっくに死んでたよ」
男は霊媒師だった。
たった今、轢き逃げで死んだ少女の地縛霊を祓ってきたところだ。
「というか、祓ったはずなのにどこからかけてきてんの」
戸惑ったような沈黙があった。まだ男の言葉を飲み込めていないらしい。
ややあって、
「……かみさまが電話貸してくれた」
「いや霊界と現界の直通電話なんてモン、ほいほい貸すな!」
「『貸してないぞ〜取られたんじゃぞ〜というかそろそろ返し』かみさま、うるさい」
入り込んだしわくちゃの声は、少女の言う『かみさま』のものらしい。
女の子に困らされる白髭の爺さんを想像して吹き出しそうになる。神様が白髭の爺さんなのかは知らないが。
「──で? アンタを殺したほんとの犯人に言いたいことある? 伝言くらいなら受けられるよ」
気を取り直して、電話口に問いかけた。
代わりに殺してやる、とかはさすがに言えないが、恨み言を伝えてやるくらいはいいだろう。
幼い少女を轢き殺しておいて厚かましくも逃げ去った犯人には、男も腹に据えかねていた。
「思いっきりおどかしてほしい」
少女が力強く答える。
「さっきみたいに?」
「さっきみたいに」
「了解。んじゃ、犯人が怯える顔を楽しみに待ってな」
そう言って電話を切──ろうとして、ああ、と思い出して再びスマホを持ち上げた。幸い、通話はまだ切れていない。
「──次は、地縛霊になんかなるなよ」
(お題:どうして)
1/14/2024, 1:18:04 PM