ねぇねぇ、まま。みて!
何度も危ないから離れてと言ったのに、娘はジュワジュワとフライパンの上で肉を転がす私の袖を引っ張り続ける。
絵を見せるのなんてそんな急ぐことじゃあないのにと思うのは、私が大人になってしまった証拠なのだろうか。
仕方がないので火を止めて、振り返る。
娘は両手で背中に隠していた紙をパッと目の前で広げた。
水色の空と、娘が大好きな虹。
・・・この子の描く虹は、いつも逆さまだった。
その始まりと終わりは、上に向かって伸びている。
無闇に否定してはいけない気がして黙っていたが、ずっとその違和感が心に引っかかっていた。
なんで正しく描けないの?
昼食を終えて、娘のお昼寝の時間になった。
遊び足りないのかなかなか寝てくれない。
仕方なく私はその傍に仰向けに寝そべり、ネットで「子ども 寝る 音楽」と検索をかけた。
その時、パッと私の手を掴んで娘が窓の外を指さした。
「ほら!にじ!」
…あぁ。そうか。
この子がいつも見ていた虹は、この虹だったんだね。
私が思い込んでいた「正解の虹」ではなくって、
寝転んだ時に見える、この、にっこり笑顔みたいな虹だったんだね。
「虹の始まりをさがして」2025.7.28
7/28/2025, 1:17:39 PM