かばやきうなぎ

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そっと包み込んで


母体回帰という言葉がある。

ふわふわとした温かなただ穏やかな愛に包まれていればいいだけの幸せな時間が恋しくて赤ちゃんは泣くのだと教えてくれた相手は誰だったか。

真偽不明なその話になるほどなぁと感心しながら手元にあるふわふわとしたタオルケットを手に取った。
手触りのいいコットンを頭から被ってベットに突っ伏して丸く丸く縮こまる。

握りしめたタオルを掴んだ手に触れるコットンがそっと撫でてくれる感触が心地よい。
自分の体温が移って程よい温かさを感じるようになると自然と穏やかな気持ちになるように思えた。

外界全てから切り離されたただひたすらに穏やかな時間。苦しい事も悲しい事とも無縁で、温かくて優しいだけの世界。確かにこれは恋しい。

帰りたい、なんて泣いても仕方ない。

じんわりと目尻に温かいものが流れそうになった時にトントンと叩く感触があった。現実にきゅうに引き戻されて怒りとも悲しみとも言えない気持ちになる。

『大丈夫?』

言葉の中に含まれた心配に満ち溢れた優しさに『言葉』を返すだけの気力がない。タオルケットの中からぶんぶんと首を振るとそっと手が添えられた。

『ご飯出来てるから気がついたら出ておいで』

トントン、と優しいリズムで肩を叩き遠くなっていく足音を聞きながらタオルケットで涙を拭った。

そうだよ。温かい場所よりも優しい世界よりも会いたかったから出てきたんだ。世界はずっと厳しかったけど、それでも会いたいと願われて会いたいと願ったから産まれてきたんじゃないかな。

ガバっとタオルケットを放り投げてビェーっと声も無く泣いた。流石に赤ちゃんみたいに泣くことは出来なかったけど、ちょっとだけ赤ちゃんの気持ちがわかった気がする。

『お母さんお腹すいたー!!』
部屋のドアを勢いよく開けて大きな声を思いっきりあげてみた。声は少し枯れていたけど、私の世界を包んでくれる人に向かってもう一度抱きしめて欲しいとお願いしてみようか。

今日からまた、頑張っていくために。

5/24/2025, 1:01:49 AM