ストック1

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「幸せとは何だろうね?」

博士が突然そんなことを言い出した
研究に集中しすぎて疲れたのだろう
科学以外のことを考えて気分転換しようとしたのかもしれない
気分転換するような内容じゃないと思うけど

「人それぞれじゃないんですか?」

ベタだけど、それが真理なんじゃないか?

「そうだね
愛するものと過ごす
趣味に没頭する
人生をかけた事業を成功させる
美味しいものを食べる
様々な幸せの形があるね」

博士の出した例はよくある幸せの形の数々だ
博士のことだから、普通に思いつかないような、変わった幸せを言うかと思った

「しかし、人類共通の幸せというのもあるんじゃないかと、私は考えてるよ」

「そんなのありますかね?
けっこうバラバラだと思いますけど
それこそ、人の数だけ存在してません?」

共通の幸せ
本当にそんなものがあったら、それがわかれば世界は平和になるかもな
でも博士は確信しているようだけど、さすがに無いんじゃないか?

「私も同じ意見だったよ
だがね、考えるうちにひとつの結論に至ったよ
共通の幸せとはこれだ、とね」

気になる
博士はとんでもなくすごい発見をしてきた人だ
そんな博士はなにが人類共通の幸せと結論づけたのだろう

「聞きたいかい?」

「もちろんですよ
なんなんですか?」

「それはね」

博士はコホンとひとつ咳払いすると、とても真剣な眼差しで僕を見た

「快楽物質を始めとする脳内物質だよ」

……ん?
なんか思ってたのと違うな
快楽物質?
脳内物質?

「人類が幸せを感じる時、それは幸せや快楽を感じる脳内物質が分泌されている時だ!」

ちょっとやばい方向へ行ってないか、博士

「つまり、そういったポジティブな気持ちで満たす物質を出し続ければ、人類の幸せは約束される!」

「あの、それって、幸せなんですか?」

「間違いなく幸せだよ!
心配も不安もなく、死ぬまで幸福感と快感が続くんだ!
嫌なことという概念自体が消失するんだよ!」

完全に思想の強いマッドサイエンティストの考えだ!

「そして私は人に栄養を送り続け、快楽物質等も分泌させ続ける素晴らしいマシンを開発した!
このマシンの中に入れば、この世は楽園になるはずだ!」

「博士、落ち着いてください
あなたは今、正気を失ってます
働きすぎです
いったん寝ましょう
睡眠不足は頭をおかしくしますから」

疲れて頭がおかしくなっているだけだと信じたいが、この人なら本当にマシンが完成済みということもありうる

「……私もわかってるんだよ
そんなのは幸せじゃないってね」

あれ、空気が変わった

「でもね
今の私は幸せじゃないんだ
好きだった研究も苦痛になり、家族にも捨てられ、趣味も仕事に忙殺されてできない……
もう快楽物質でもなんでもいいから、幸福感を手に入れたかったんだよ!」

博士、色々大変だったんだな
僕はたまに手伝うだけだから気づかなかったけど

「博士
もう明日からしばらく全部忘れて博士の好きな美術館や博物館を巡って存分に楽しみましょう
そうでもしないと、限界突破しちゃいますよ
研究所の方には、僕から事情を話しますから」

「ありがとう
そうさせてもらうよ
……ところで、マシンは一応完成してるんだが、少しでいいから試してみないか?
研究者として成功か失敗か、知っておきたいんだが」

「絶対に嫌です」

1/4/2026, 10:45:24 AM