NoName

Open App

「言葉にできない」

 なんて言うような感情が、僕の中で数え切れない位に渦巻いている。

 親友との再会、春の匂い、変わりゆく街並み。

 それは思いも寄らぬ瞬間に現れ、深く心に残る、傷のような、あるいは証のようなもの。一つ成長したな、と思えるほんの少しだけの時間。
 僕はそんな感情を集めるのが好きだった。

 忘れてないようにと、頭の中で何度も言葉にしようとする。

 だが大抵出来ない。考えを自分から次々に重ねて分からなくなるからだ。

 なけなしの知識を絞っても、打った文字は支離滅裂で目も当てられない。今もそうかもしれない。

 それでも僕は今日も拙い文章で、一瞬一瞬を切り取っていく。

 思い通りにならないもどかしさもまた、集めるのが好きだから。
 
 
 

 
 

4/11/2023, 2:46:34 PM