「ここはずっと穏やかな天気が続いているよね。曇りや雨にはならないのかい?」
僕がそう彼女に訪ねると彼女は言った。
「…………ここは迷い子にとっての理想の世界となるべきだから。突然の雨や、低気圧による頭痛が起こるなんて人がここで苦しんじゃいけないんだ」
きみはみんなの自我を無くす洗脳をしているのに? なんて言葉が口から零れそうになったが、どうにか止めた。
「…………じゃあ嵐なんて来ないのか」
「そうだね。仮に嵐が来ようとも、ボクらのことは守られるかも…………しれない」
やけに歯切れ悪く彼女は言った。
権力者としてこの世界を統治してるくせに偉く自身の無さそうな口ぶりだ。
もしかしたら、彼女はあまり力がなくて、上手く守れるか不安なのかもしれないな、なんて思うと少しだけ笑みが零れる。
「……きっと、きみならできるよ」
「…………そうかな」
出来なかったら僕のピアノが壊れてしまうから困る、なんて思いながら言った呪詛は彼女にはただの応援メッセージに成り代わったらしく。相変わらず駆け引きができないな、なんて僕はそっとため息をついた。
7/29/2024, 3:04:24 PM