朝、ベッドから起き上がる。
二歩。テレビをつける。
五歩。お手洗いに到着。
四歩。洗面台で顔を洗う。
五歩。朝食の準備をする。
玄関からベランダまでは十歩もあれば十分で、少し手を伸ばせば欲しいものに手が届く。
贅沢には程遠いけれど、見渡す限り私の好きが詰まった愛すべき空間。
ここは狭くて、愛おしい、私のお城。
『狭い部屋』
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『狭い部屋』
一人では持て余してしまう程に広いこの空間には、日々を過ごしていく上でおおよそ求められる全てが揃っている。
柔らかく日差しが差し込むレースカーテン、寝心地の良いふかふかのベッド、新旧問わずいろんなジャンルの本、DVDやCD、ヨガマットに物作りのキット。試したことはないが、欲しいと願えばきっとなんでも揃う。
そうやって窮屈な思いをしないようにと整えられたこの空間だけど、その実私の求めているものは何ひとつない。
どんなに広い部屋を充てがわれたって、どんなに不自由の無いようにと物を揃えられたって。外の世界に一歩足を踏み出すことすらできないのなら、こんなところは狭苦しい鳥籠も同然。
それでも、わかっていてもここから飛び出すことが出来ない私は、この無機質で、広くて、それでいて狭い部屋で、今日も変わり映えのない1日を過ごす。
誰にも言えない、私が求める唯一のもの。
それはね、広い世界へ羽ばたくための、健康な身体。
6/5/2024, 9:17:14 AM