かたいなか

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「君と一緒に『するな』なのか、君と一緒に『◯◯したい』なのか、君と一緒に『居たい』なのか。
君と一緒に『された』もあるな」
個人的には、「君と一緒。にほんスイセンが好きなんだ」で、冬に咲く東京の日本水仙の香りなんかをネタにしても面白いと思うんだ。
某所在住物書きはニラとショウガのスープを飲みながら、ぽつり、ぽつり。お題について語った。

冬真っ盛りであった。東京は金曜、最低0℃の予報であった。奥多摩に至っては零下の予報である。
体を温める食い物が良いだろう。
「……別に冷え性とは、まぁまぁ、違うけどな」
寒いものは寒いんよ。物書きが言った。
零下よ。厳冬よ。君と一緒に過ごすのは、数日程度でカンベン願いたいのだ。

――――――

職場の昼休憩中に、支店に居る私から本店勤務の先輩に、グルチャを投げた。
『先輩、今年はいつ実家に帰るの』
先輩は雪国の田舎出身だから、年に1回以上、東京の職場から雪国の故郷に里帰りをする。
去年の2月の暮れに、私は初めて先輩の帰省に一緒についてった。
そこで見た冬晴れがキレイだった。
一面の青だ。見上げた空に、人工の建造物が1個も割り込んでこない。

ふと、今年もその青を見たくなった。

『決めていない。何か土産に買ってきてほしい物でも、ネットで発見したのか』
私のメッセージはすぐ既読が付いて、
すぐ、先輩から返信が来た。
先輩のこの速さは、ブルートゥースの外付けキーボードだ。ということは先輩、今日は自分のアパートからリモートワークらしい。

つまり、私も今日リモートワークの申請出して、先輩と一緒に先輩のアパートで仕事してれば、
今頃先輩の、低塩分・低糖質シェアランチが食べられた、っていうことだ。
ぐぬぬ(後悔先にナントカ)

『今年も先輩と一緒に帰省したい』
『交通費は大丈夫なのか。昨年、だいぶゲームの課金に注ぎ込んでいたと記憶しているが』

『我々の財力を、見くびってもらっては困る。
なぁ、管理局法務部執行課、ツバメくん』
『私はツバメでもなければ法務部でもないし、おまえのその発言の元ネタも分からない。
要するに、貯蓄は?余裕はあるのか』

『覚悟はできています。
信じてください。ルリビタキ部長』
『私はツバメとかいうやつなのかルリビタキ部長の想定なのかどっちだ』

先輩、せんぱい。
君と一緒に、君の故郷の青を見たい。
昼休憩の最中に、お弁当を食べながら、ポチポチ、ポチポチ。メッセを送る。

『今年は』
今年は、例の「冬の妖精さん」、いつ咲くの。
去年見たフクジュソウは、いつ咲きそうなの。
それを聞こうと文字を打ってたら、
先輩の方から、妙な返信が来た。

『きおぃkお』

『いおdふぉいkでこいっっっっっっっっjl』

きお?(困惑)
先輩、本店連中の理不尽で壊れた?(心配)

どうしたの、って文章送ろうとした矢先に、また先輩から返信。今度は判読可能なメッセだ。
『突然変な返信をしてすまない。
こちらの部屋に遊びに来ている子狐が、キーボードにイタズラをして誤送信してしまった』

どうやら、きおぃ云々と、ふぉい云々の犯人は、
本店連中の理不尽じゃなくて、先輩のアパートの近所にある稲荷神社で飼われてる子狐らしい。
詳しい仕組みは知らないし、どうやって先輩の部屋まで来てるかも分からないけど、
一昨年の初夏あたりから、先輩の部屋にちょくちょく、遊びに来てる子狐だ。

先輩、せんぱい。
君は子狐と一緒に、君の部屋でモフモフファクター摂取タイムをしていたのだね。
ちきしょう羨ましいな(こやーん)

『いいjぉじlじっlk』

『p.;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;んjh』

先輩からのグルチャは、相変わらず子狐アタックされた文章が届く、届く。
『子狐くーん。お仕事終わったら、先輩のお部屋に油揚げ持ってってあげるから、一緒に食べようね』
そろそろ昼休憩が終わるから、ばいばい。
そう付け加えてグルチャから退席しようとしたら、
ピロン、コンマの最速で返信が来た。

『q^@。』
ふと、自分のキーボードの、対応キーを見た。
「q:た」「^:へ」「@:゛」「。:る」。
五十音入力方の、「た べ る」だった。

1/7/2025, 6:23:24 AM