みかん
”年末年始は絶対に家から出ない”
二人の間に何年も置かれたルールは、制定されてから一度も破られたことが無い。
ただ、2年目に
尚、初詣は良しとする
が追加されたのは目をつぶるとしてだ。
理由は簡単
年末年始は2人で振り返り新しい1年も共に良いものにする
そのために設けられた2人だけの時間だ。
だから数日間家に籠るための買い出しには余念が無い。
数回に分けて大量に買い込み、この日はこれ、この日はこれ、と計画を立てて
足りないことの無いように、とはいえ余らせてもしまわないように慎重に買い込む。
のだけれど…
「みかん買いたい」
「え、珍しい、どしたの?」
みかんの山を目の前にして立ち止まる貴方
今までみかんを買う年は無かった。
確かにお正月と言えばこたつにみかんだけれど。
「なんか食べたくなっちゃった」
そう言う貴方はそのままみかんが何個も入った袋に手をかけた
「待って待って、そんなに買うの?多くない?」
「なんで?」
だってこっちは別に要らないし。
全て計画されてるから、みかんを買うと予定が来るって余ってしまいそうだし
「悪くなったらもったいないし、1個でいいんじゃない?」
「でも、食べたくなった時に家から出られないのは悲しいじゃん」
この人はそんなにもみかんが好きだったのだろうか
数年一緒にいるけれど、見たことない一面だった
結局こちらは食べないから、自分で管理することを約束して袋に入った沢山のみかんを買うことにした。
ただでさえ物の多い冷蔵庫の中に堂々と仲間入りしたそいつは結構邪魔。
まあでも、あんなに食べたそうにしていたし、きっとすぐに無くなると鷹を括ったのが30日
そして今日は所謂三が日最終日だ。
「ねえ、みかん1個も食べてないでしょ」
「あ、忘れてた」
普段買わないものだから、食べるところが存在すら忘れていたらしい
他のものは順調に我々のお腹に収まっていくのにみかんだけが減らない数日は地味にストレスだったのに、「忘れてた」らしい
「悪くなる前に自分でちゃんと食べ切るって約束した」
「でもまだ大丈夫でしょ?」
「あと1、2個ならまだしも全部残ってたら悪くなるまでに食べきれないじゃん」
自分で言いながら、良くない流れだと気づいた
貴方もそれを察したのか、次何を言うべきか吟味して一時の沈黙
その沈黙を破ったのは貴方だった
「よし、炬燵出そう」
「え、今?」
「今」
「もうお正月終わるのに?」
去年寝落ちばかりで身体に悪かったから、と今年は出さなかったそれを、こちらの質問にも答えずに急ぎ足で探しに行く背中を見送った
数分も経たずに見慣れたそれを持ってきて、ホコリを拭いて設置完了
まるで実は出したかったかのように
「ここ座って」
「ええ…」
「ほら早くー」
部屋を暖かくしてるから、わざわざこたつに入る理由なんてないのに、腕を引かれて指定された位置でこたつに入る
中は室温と変わらなかった
「これ、電源ついてる?」
「ついてないよ」
「もう、つけるからね?」
「コード持ってきてないから、つかないよ」
「へ?」
何も変なことはしてません。と言いたげな顔でキッチンに向かった貴方の思考が読めなかった
謎すぎる
何年も一緒にいるのに、何がしたいのかさっぱり
みかんを買いたいと言い出したりこたつを出すと言い出したり、大分貴方をわかってきたと思っていたのに
実はまだまだ何も知らないと言われているように少しショックだ。
「はいこれ」
「これって…」
渡されたのはさっきまで冷蔵庫に居たそいつ
「食べないって…」
「これでも?」
そう言うあなたの手はゆっくりと私の口元へと誘われていた、その手にはいつの間にか1口大になったみかん
「まあ、それなら…」
私の嫌いな筋も綺麗に取り去られたみかんは何だかんだいっても美味しかった
結局その後、こたつにみかん威力は絶大で
物の2日で全て無くなったのは秘密にしておきたい。
12/30/2023, 6:11:49 AM