猫宮さと

Open App

《きらめき》

夏の終わり、昼に暑さは残れど夕闇の風は徐々に冷たさを含んでくるこの時期。
今日は、鎮魂と秋の収穫の無事を祈る祭事の日だ。
帝都は工業都市だが、他の地域では農業や採掘に従事している場所も多い。
その地域への感謝を忘れぬ為に、この祭は行われている。

海が見える港で、皆で小さなランタンを空に飛ばすものだ。
僕も彼女と二人ランタンを手に取り、港で海の沖へと思いを馳せる。

この祭は、大事な神事だ。
この日の為に港に用意された簡易祭壇の前で、神子が朗々とした声で祈りを捧げる。


海に還りし命は
太陽の慈しみを受けきらめき
空へ昇り白い雲となる

空を揺蕩う雲は
月の祝福を受けかがやき
雨粒となり緑を潤す

人の命も巡りゆく
海に還りし命は
空の狭間より降り立ち
緑を潤す流れとなる

時と共に流れる水は輪を描き
我らの命を送るもの
海よ我らを救い給え
緑よ実りを齎し給え

命のきらめきを宿すものよ
今こそ高らかに空へと唄え
巡る命がまた
我らの元へ来る日まで


まさに天高く唄うような祈りが響き終わると、僕達は手にしたランタンを空へ放つ。
たくさんのランタンのきらめきが、夜空を幻想的な橙に彩る。
その灯りのきらめき一つ一つに、各々の願いや祈りが込められている。

遠く海へと還った僕の家族達も、今は安らかであるように。
海で眠る魂達は、空を巡りまたこの地へ生まれ変われるように。
今年の実りは、全てに行き渡るほど豊かなものになるように。
帝国の人々は、未来永劫穏やかに暮らしていけるように。

傍らでは、彼女が手を組み空へ祈りを捧げている。
僕も目を閉じ、空の灯りに祈りを託した。
てる皆様には感謝しております。
ありがとうございます。

9/5/2024, 2:23:24 AM