ほろ

Open App

「おや、おやおやおや? これはこれは、我が部の幽霊部員くんではないか」
「……メガネの化学オタクじゃねーか。何してんだよ、こんなとこで」
「そりゃあキミ、見てわかるだろう?」
ケーキ屋のレジにいた同級生は、わざわざ近くに出てくるとくるりと一回転してみせた。赤いスカートがふわり。被った帽子がちょっとだけズレる。
「期間限定でケーキ屋のバイトだよ」
「クリスマスにご苦労なこって」
「そういうキミは、ケーキを買いに?」
「見りゃ分かるだろ」
A4の紙を見せると、ああ、と呟いて俺の手から紙を奪い取った。
ふむ、キミのケーキはこれか。勝手に納得した割に、ケーキを持ってくる気配がない。
「キミ、これはホールケーキだが?」
「知ってる。俺が頼んだからな」
「何故? キミのクリスマスの過ごし方にケチをつける訳では無いが、よもや家族のおつかいか? いや、それならキミがわざわざ頼む必要はないな。では、恋人でも?」
「いねーよ、うるせえな」
そうか。そう一言残し、奴はようやく予約したケーキを持ってきた。
「ちなみに、私の腹は今、ちょうどホールケーキの半分が入るくらいには空いているのだが」
「そう言うと思ったから、ホールケーキ頼んだんだよ」
「では、あと五分待っててくれ」
にぃ、と笑う奴に、俺は溜息で返事をする。
お前がクリスマスに独りだと思って誘ってやってんのに、その笑みはなんなんだ、まったく。やっぱ気を遣うんじゃなかった。

12/25/2023, 3:11:29 PM