海月クラゲ

Open App

◤誤った行為を◢

人々は在り来りな日常の内にスリルを求める。遊園地や旅行に行って、そのスリルを味わうのは良い。それはこの世界において正常なスリルの感じ方だろう。

そんなものでは足りなくて、もっともっとと手を伸ばす少年少女はスリルの炎に身を投げた。自らの身体が焼けていることにすら気づかないまま。

☆。.:*・゜

ふわふわとした心地に包まれて目を覚ます。自分を抱き留める手がどこにも行っていないことに安堵して、それでもこの後本当の愛を抱きしめに行くのだと思うと心は締め付けられた。涙は出ない。そういう約束だったから。

彼の胸に軽く頭を擦り付けた。私の匂いがついて、それに気づかれて、破局してしまえばいいのにと思った。彼は聡い人だから、そんな私のことも見越して、帰る前に風呂に入って、服を正して、ちゃんとキスマークがつけられていないか確認して、それから帰る。

愛しい妻と子どもが待つ家へ。

行かないで、なんて言えない。それでも、今だけは自分が一番近くにいる女なのだと優越感に浸った。今だけは、好きを心の中にいっぱい注げた。

「好き」

音にならない、口の動きだけの愛を彼へ捧げた。

☆。.:*・゜

何時からスリルが好きだったかと聞かれれば、物心ついた時からと答える。だから、こんな危険な仕事に就いた。

空爆警報が辺りに響く。俺はカメラを片手にシェルターへと逃げ込んだ。身に着けてはいるがどうにも心許ない防弾チョッキとヘルメットが、俺の所属を示していた。テレビ局所属の、紛争地域への特派員。

特派員になると言ったとき、親には辞めろと泣きつかれ、友だちには正気かという目で見られた。自分の精神が、一般と比べて異端に当たるのは分かっている。それでもこの仕事がしたかった。

すぐ先、目に見えるところに着弾する。必死に走っていなければ当たっていただろう。胸の高鳴りは緊張と恐怖だ。ここに来てから辞めたいという思いばかりで、なって良かったことというのは取り立てて思いつかない。それでも、この選択を間違っていたとも思わない。

右腕を見る。そこには血濡れの腕があった。たぶん、どこかで誰かの血が付着したのだと思う。手を握りしめて、直後に話を聞きに行くことにした。自分の後ろにうずたかく積まれた遺体を見ぬふりしながら。


テーマ:スリル

11/13/2023, 8:11:39 AM