#69 きらめき
残暑の季節になって、やっと知っている夏の暑さになってきた、今日この頃。
私たちは硬いアスファルトの道から外れて、公園の林へと足を踏み入れた、のだが。
「うわ、わっ」
足から伝わる、土の上に落ち葉が積み重なった柔らかな感触に驚いてしまい、思わず体がよろめいた。
「っ、大丈夫か」
隣の彼が咄嗟に腕を掴んだのに、内心また驚いた。
「う、うん。もう大丈夫」
「念の為、このまま繋いで歩こう」
そうして改めて握られた手を振り解くのはハードルが高い。恥ずかしさを我慢して、共に歩き出した。
「地面がふかふか、っていうかモフモフしてる」
「アスファルトから来ると変な感じだよな」
自然の刺激の多さと緊張もあって、落ち葉を踏む音を供にして、しばらく無言で歩く。
そのうち手の温度にも、土の歩き心地にも慣れてきて、周りを見回す余裕が出てきた。
風が吹き抜けて髪を揺らしていく。
「風が気持ちいいね」
「そうだな、涼しく感じる。きょろきょろしてると転ぶぞ。そこのベンチに座ろうか」
気恥ずかしさを感じつつも、勧められるままにベンチへ座った。
彼に倣って上を見上げれば、
日光を受ける葉の揺れ動く煌めきが視界いっぱいに広がり、ざあざあとした音に包まれる心地がした。
ここは、まるで海のようだ。
(さしずめ、ここは海底かしら)
思いっきり息を吸い込めば、潮ではなく土の香りがした。
「気に入ったか?」
掛けられた声に顔を向けると、思っていたより顔が近くて息を呑んだ。
微笑んだ彼の瞳が、木々の隙間から差し込んだ光を受けて、きらめいた。
9/4/2023, 3:42:56 PM