『誰にも言えない秘密』
毎朝の身だしなみは欠かさずにやること。
どんなに寝坊したとしても。何があっても。
それは、死んだじいちゃんとの約束だった。
そんなわけで今日も私は鏡の前に立っていた。
出かける二時間前に起きて、家事をして、髪を整える。去年から通い始めた高校のセーラー服を着る。
もちろんアイロンはばっちりで皺はほとんどない。
月曜日じゃないからと、自分に目をつむる。
じいちゃん特製の尻尾と耳をつけたら完璧だ!
「おはよう」
「おはよー!」
元気な挨拶が飛び交う中、異形たちにまぎれて校門をくぐる。
生まれてすぐにこちらへ迷い込んだ私は孤児だ。両親は人間だとバレた途端に殺されたらしい。
化け上手なじいちゃんが助けてくれなかったら、私もとっくにお陀仏してただろう。
そんな命の恩人は、数年前、化学の神に選ばれて転生してしまった。神になっても見守ってるぞ。それが遺言?となった。
とにかくこの世界の住民に人間だとバレないこと。
それは誰にも知られてはいけない秘密だったのに。
「お~はよっ、ヒトちゃん」
誘導に乗せられてつい、この耳がお手製だとこぼしてしまった。半年くらい前の森林合宿で。
この、犬の大将に!
同じイヌ科なのに臭いがしないと指摘されて焦ったのがいけなかった。風で香水が消えかけていただけだったのかもしれないのに。
これ以上ヘマはしないと威嚇する私と、それを見てにやける犬の大将。
本日一戦目のゴングが鳴ろうとしていた。
6/5/2024, 1:09:46 PM