アリア

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 僕は散歩が好きだ。同じ道を歩いていても体調や気分によって見え方が全く違うからだ。それがどうしても不思議でまた散歩をしてしまう。
 今日もいつものルートの道路の狭い住宅街を進み、前方の十字路を渡ろうとしたその瞬間、左側から車が猛スピードで通り過ぎた。頭で考えるよりも先に体を後退させ、衝突を避ける。バランスを崩し、尻餅をついた。飛び出してきた車に文句を言いたかったが、頭が冷静さを取り戻した頃には、車はもう見えなくなっていた。今更痛覚が戻ってきて、倒れる時に打ったと思われる腕や足が痛かった。今日の散歩は最悪だ。さっさと帰ろうと腰を上げようとしたそのとき、
「あの、よかったらこれ、使ってください」
いつの間にか目の前にいた女性がハンカチを差し出してくる。僕はうまく言葉が出てこなくて、愛想悪く受け取ってしまう。彼女は急いでいるのかすぐに立ち去ってしまった。
 翌日、僕は昨日と同じ時間に散歩する。彼女にハンカチを返すために。

1/29/2024, 2:59:14 AM