わをん

Open App

『君と一緒に』

生涯を共にしたいと思っていた相手が香の焚かれた部屋に眠っている。もう目を覚ますことはない。白い祭壇に置かれた可憐な婚約指輪は僕が彼女に贈ったもので、持ち主のことを想ってか寂しげに煌めいている。明日になれば火葬となる夜に彼女の両親は僕に寝ずの番を託してくれた。ふたりきりの長い夜に泣き言や情けないこと、懺悔のようなことが口をついて止まらない。彼女はただ聞くばかり。
「僕もそっちへ行きたいよ」
ぽつりとつぶやいた言葉を彼女はどう思ったのだろう。うつらうつらと眠ってしまった僕の前に彼女が笑顔で現れて、僕の顔を渾身の力を込めた拳でぶん殴った。
「そんなことばっかり言ってるあなたとは一緒にいたくない」
はたと目覚めたときに頬を押さえたが痛みはないし腫れてもいない。けれどもうこれまでのようなことを言おうとは思わなくなっていた。祭壇に置かれた婚約指輪に手を伸ばし、眠る彼女に問いかける。
「僕がまた今日みたいなことを言ったら、また殴ってくれる?」
蝋燭が揺れて、指輪が煌めいたように思えた。

1/7/2024, 2:11:25 AM