300字小説
年の瀬の雪の夜に
雪がちらつく夜。一杯引っ掛けたくなって、赤提灯を下げた居酒屋に入る。カウンターで突き出しをツマミに熱燗を啜っていると、奥の座席で客達の交わす、とりとめもない話を、にこにこと聞いている男に気付いた。
「ここの皆の衆にとっては今年もそこそこに良い年であったようじゃな」
善き哉。男が盃を飲み干す。
「あの人は……」
店の親父がぼそりと俺に告げる。
「……おや、貴方には見えるのですか? 今年の年神様ですよ」
「おあいそ。来年の年神もよろしく頼む」
目の合った俺に、にこと笑って、男が親父に小さな熊手を渡す。
「残り十三日、大事なく息災でな」
カラリと戸を引く。積もりだした新雪に足跡を付けることなく男は夜道を去っていった。
お題「とりとめもない話」
12/17/2023, 11:22:06 AM