柔良花

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 目が合った。その瞬間に量産品の君は、私にとってたったひとつの特別になる。
 
 ぬいぐるみを家に迎え入れる決め手は何だろうか。私の決め手は彼らと目が合うことだ。綿と布で構成された彼らに対して〝合う〟と言うのはおかしいかもしれないが、そうとしか言いようがない。
 雑貨屋の棚やクレーンゲームの筐体の中、目の前を何気なく通り過ぎようとすると、ふと視線を感じるときがある。そこで足を止めてしまったらもうおしまい。同じ姿かたちなのに、一体だけどうしても目が離せない子が見つかる。
 顔の刺繍や綿の詰まり具合、そんな些細な違いが目に付いているだけなのかもしれない。けどもたしかに、大量生産されたモノ達の中で、君だけが息をしている様に感じられるのだ。
 
 【特別な存在】

3/24/2023, 9:53:04 AM