作家志望の高校生

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俺には親友がいる。
「…………は、よ……」
朝の挨拶をしながら半分寝ているコイツである。
彼は俺とは正反対。彼の友達は俺一人くらいしか居ないし、そもそも彼は話すのがあまり好きではない。夜型で、いつもゲームばかりしている。下を向いて歩きがちで、そのまま電柱にぶつかったり、結構抜けてる。そんな奴。
今日も今日とて、俺は彼の横を歩いている。それなりに友達が多い自信も、話すのが好きな自信もあるが、それでもコイツといるのは楽しい。
「今日も相変わらず眠そうだな。」
「ん゙〜……」
息が白く染まるほどの寒さの中、彼はネックウォーマーに顔を埋めて唸っている。
「寒い、眠い、帰りたい、ってとこか?」
「…………俺の心情当ててくんな……合ってるけど……」
ガクガク震えつつも一応返してはくれる。コイツは仏頂面と無愛想な話し方のせいで初対面の印象最悪だし、本人も一匹狼型だからそれを直そうとしない。皆、コイツのこういう面を見れば見る目変わるのかな。
2人して耳を真っ赤にしながら横並びで歩いていく。俺もマフラーくらい着けてくればよかった。寒い。
「……あ。」
彼の短い返事の合間に一人でベラベラ喋っていると、ふと、下を向いていた彼が口を開いた。
「どした?」
「……霜……」
彼の視線の先に目をやると、そこは農耕を終えたらしい畑だった。よく耕された土が一面に露出している。その土に、霜柱ができていた。光がキラキラと反射しているのを見るに、きっとこの畑一面が霜柱で覆われているのだろう。
『……』
2人、一瞬だけ目を合わせる。俺達は健全な男子高校生である。霜柱を見てやることなんてただ一つ。
無言で霜柱を踏み荒らしていく。さすがに、せっかく耕してある畑の土を潰してしまうのは罰当たりな気がするから、端っこの方。
十分くらいそうして、満足した俺達は何事も無かったかのようにまた学校へ足を向ける。
凍えるような、寒い寒い冬の朝。俺はあまり下を向かないから、霜柱にはいつも気付けない。
彼は、俺にいつも新しい視点をくれる。今だってそうだし、ずっと昔からそうだった。
まだ寒そうにしている彼に、俺も新しい世界を教えてやりたくなってしまった。彼は相変わらず下を向いている。
「……ね。綺麗じゃね?」
半ば無理やり前を向かせる。冬の朝、澄んだ空気の中山は霞がかっている。一面の霜に光が反射して、世界全体にラメでも振りかけたようだ。
「……きれー……」
ほう、と白い息が揺れて、ネックウォーマーが下にずり落ちる。真っ赤になった頬と鼻の頭がよく見えるようになった。伏し目がちな目をぱちりと開いて、寒さも忘れたかのように前を見つめている。
そんな姿が猫みたいで、思わず小さく笑ってしまう。俺は冬より夏が好きだし、寒いのは得意じゃない。でも、コイツとこうやってバカをするのは大好きなのは、どれだけ寒くなっても変わりそうになかった。

テーマ:凍える朝

11/2/2025, 5:55:18 AM