お題『あの日の温もり』
あの日、急に彼に抱きしめられた。おどろいて思わず突き飛ばしてしまったけど、あれ以来彼の心臓の鼓動や腕のなかのあたたかさを忘れられずにいる。
あれからなんとなく彼がいそうな場所を避けて、でも私が悲しんでるからといってなんであんなことをしたのかと問い詰めたい気持ちがあった。
夜、残業して公園の前を歩いているとなぜか彼に出くわした。私もきまずかったし、彼も気まずそうな顔をしている。
彼はとっさに逃げようとした。私は思わずその手首をつかむ。
「まって!」
振り返った彼は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「ごめん、ごめん」
と何度も言ってあんなことしたくせに被害者面をするなと思う。
「ごめんじゃなくて。なんであんなことをしたのか、話を聞かせて欲しい」
すると彼は顔を一気に赤らめさせた。夜の暗がりでもそれがはっきり分かるくらい。
彼は私から視線をそらしながら言う。くちもとが震えている。
「そ、そそ……それは、きみがすき、だから……」
それを言われても今更驚かない。さすがに抱きしめられた時は驚いたけど、あの時元々付き合っていた彼氏にフラレて落ち込んでいたのは事実だから。
「うん、わかった。とりあえず、今度お茶でもしない?」
彼を誘うと一変、パァァァという効果音が出るのではないかというくらいに嬉しそうに笑った。
3/1/2025, 3:14:49 AM