《旅の途中》
「あれ、絵葉書だ。珍しい」
ある日の夕方、俺、齋藤春輝がポストに入っていた郵便物をチェックしていると、珍しく絵葉書が入っているのを見つけた。
「絵葉書?」
キッチンで夕飯の支度をしていた蒼戒が俺の呟きを拾って怪訝な声を出す。
「そう、絵葉書。……ってしかも俺たち宛じゃねーか!」
「はあ? 誰から?」
「えーっと……、瀬音……あっ! これセオからだ!」
「セオだと?」
瀬音立太(せおと りった)、あだ名はセオ。俺と蒼戒が幼稚園に通っていた頃のクラスメイトで、俺たちが小学生になる時に引っ越して今は北海道に住んでいる。
「そう、セオから」
「あいつ確か1週間くらい前にこっちに遊びにくるって手紙来なかったか?」
「だよなぁ……。あ、あるある。2、3日したらそっちに着くと思うからよろしくって書いてあるぜ」
俺は郵便物がまとめて置いてある棚の中を探してセオからの手紙を発見して言う。
「そういえばまだ来ないのはおかしいと思ってたんだ……」
「確かにな。でも確かあいつさぁ……、
「「極度の方向音痴だったよな」」
とても珍しいことに俺と蒼戒の声が重なる。明日は槍が降るかもしれない。
「あいつまだ方向音痴治ってなかったのか……」
蒼戒が呆れたように額に手をあてる。
「すげー単純な道でもすぐ迷うから常に2人以上で行動させられてたよな。……つーかよくよく考えてみたらあいつが北海道からここまで来れるわけないじゃん!」
「今来た絵葉書、どこからだ?」
「えーっと、この絵葉書の写真からして……屋久島、かな」
「屋久島……縄文杉か」
「そう。鹿児島県だっけ」
「ああ。あいつどこまで行ったんだ……。かなり通り過ぎてるぞ……」
「まあ気長に待つっつーもんじゃね?」
「まあそれしかないな」
どうやらセオがここに来るまではまだまだ時間がかかるらしい。今はまだ長い長い旅の途中だ。
それから3日。
「あれ、また絵葉書」
「セオか?」
「ああ。今度は……大阪城、かな」
「いや、これは姫路城だ」
今度は姫路城の絵葉書が送られてきた。
「とするとセオは今兵庫にいるのか」
「そうなるな。移動してたらわからないが」
「まあ段々ここに近づいてはいるな」
「だといいが」
更にそれから3日。
「あれ、また絵葉書」
「今度はどこだ?」
蒼戒はもう絵葉書が来るのに慣れてしまって、誰からだとか聞かなくなった。まあもちろんセオからだけど。
「えーっと、今度は……、どこだこれ。中国?」
「見せてみろ」
俺は「ほれ」と蒼戒に絵葉書を見せる。
「これは……、万里の長城、だよな……」
「やっぱりそうだよな」
絵葉書には万里の長城らしき建造物が写っていて、セオと思われる字で、『ここどこー?』と書き添えられている。
「とすると遂に他大陸に渡ったか……」
「日本に戻って来られるのかね、セオは」
「知らん。昔のままならあいつそれなりにタフだったしなんとかなるんじゃないか?」
「だといいけどなぁ……」
セオが長い長い旅を経て、俺たちのところにやってくるのはもう少し先のお話。
今はまだ、旅の途中だ。
(おわり)
2025.1.31《旅の途中》
1/31/2025, 4:30:22 PM