三行

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「あ〜さっむ……」
朝特有のひんやりとした空気を味わいながら、朝食の支度をする。
秋だろう季節と言うのに、もうすぐ傍まで冬が近付いていると感じる。
「腹減った」
後ろから弟に声をかけられた。前から思っていたが、彼は寒くないのだろうか?いつも半袖半ズボンという格好だ。
小学生ならではなのか、反骨精神から来るものなのか。
……わからないな。
「起きれてえらいじゃん」
軽く頭を撫でる。大人しく受け入れるこの子は可愛い。
言ってなどやらないが。言ったら調子に乗ってまた事ある毎に頭を差し出してくる事になるだろう。
他の事が手につかなくなる。可愛すぎて厄介だ。
「ほら、顔洗ったりしておいで」
「うん」
今日も素直で可愛い。いい子だ。

もうじき冬がやってくる。
クリスマス、というイベントも、待ち受けている。
育てるものとしては特に気を使う。
ああ、なにをお願いするのかな。なにを貰えるのだろうか。

「冬が来たら、何がしたい?」
気紛れに聞いてみる。
「え、うーん……雪遊び?」
なるほど。雪か。
「雪は、いいね」
この子が来た日を思い出す。
私とこの子は血の繋がりは無い。赤の他人だ。
私は真っ白な肌だが彼は黄みが強い。
瞳の色も違うし、親子だとはとても言えない。
だから彼を弟にした。
周りには母親が違うのだと言っている。
この地域は治安が良いわけでは無いから、普通に受け入れられている。
それにこんなこと、この辺じゃそんなに特異でもない。

独り凍えていたあの子を連れ帰ったのは何を思ってそうしたんだろうか。もう忘れた。
今はただ守りたいと、そう思っている。
彼が健やかに育ってくれたら、それでいいと。

「雪、降るかな?」
顔を覗き込んで聞いてくる、可愛い弟。
「ああ、きっとね」
去年はこの子と出会った、雪の降るクリスマス。
今年は彼の悲しくひもじい顔ではなく、それを喜ぶ顔へと変える雪を、どうかください。
「ああでも、暖かい格好しないと風邪ひくからね」
「え〜……うん……」
その時はアウターと、マフラーと、手袋と……。
少し嫌そうな顔をしているけれど、どれか2つは着けてくれないと困るね。

彼が冬を嫌いにならないように、生きることを諦めないでいられるよう……
無事に年が明けますように、なんて願うのは少し気が早いだろうか。




「雪を待つ」2023/12/16

12/16/2023, 12:46:15 AM