「うう……」
耐えよう、耐えようと堪えた嗚咽は、悲しみに溢れた声に変わってしまっていた。我が子の頬へと落ちる水の雫は決して綺麗なものではなく、色は透明であるが、実質はドブ川のように荒んだものであった。
「ごめんね…」
頭の中は情景を映さず、ただただグレーな靄がかかっているのに、我が子の愛らしい寝顔を見る度に胸がずきずきと痛くなる。どうしてこの子は私の元で産まれて来てしまったのだろう。蔑ろにするわけではないが、今日に至るまでに何十日とそう思った。きっと、私以外のお腹に宿れば、きっと幸せな女の子になったのだろう。大好きな服や、靴、夜ご飯、お出かけ。あなたがやりたいこと全部叶えてくれるお母さんの元に出会ったのならば、どれほどあなたは幸せだっただろう。どれほどあなたは素敵な五歳の歳を迎えたのだろう。
苦しくなるだけの未来の想像を何度もしながら、震える手のひらで少し茶色の我が子の頭を撫でる。
「ごめんね、ママの元で産まれてきてしまって、ごめんね」
私の懺悔を、何もなかったように。ぴゅう、と網戸から強い風が差し込み、古びたカーテンがすうっと揺れた。茶色い我が子の髪も、無邪気に、一緒になって揺れる。
今日は快晴だ。とても。腹が立つくらいに。雲一つない、私たちを何も助けてくれない晴れやかな空。
「……ママ?」
空に送っていた視線を我が子に向けると、眠たそうに目を擦りながら、我が子は私の顔を見上げていた。
あれ、ママなんで泣いてるの。そんなふうに今日もまた言われないように、さっと下を向いて目尻の水を拭って、さん、はい。
「しおり、おはよう」
あなたの目に映る母は、優しいママでありたい。
/目が覚めるまでに
8/3/2024, 4:05:43 PM