恋の話が好きだ。
人が人に対して熱烈に感情を動かし、その感情ゆえに非合理的なことさえ行う。なんて不可解で、なんてロマンチックで、想像するだけでも胸が躍る。
ページを捲る度、音声を聴く度、舞台や銀幕を瞳に映す度、私は鼓動を高鳴らせる。
あぁ、恋とはなんて素敵なものなのだろう。
不意に、友人が私の手を握る。
「ねえ。僕とのこと、考えてくれる?」
「何度も悪いとは思うけれど、そういうことは考えられないの。交際相手が欲しいのなら貴方にもっと相応しい人がいると思うわ」
素っ気なく返し、振り払った掌をそっとハンカチで拭う。彼は顔を曇らせ、肩を落とした。
私は恋の話が好きだ。でも、人が人を愛するという関係を自分自身に置き換えることは、これっぽっちも想像がつかない。
ああ、もしかしたら私は『恋物語』そのものに恋をしているのかも知れない。
5/18/2023, 7:30:15 PM