霜降る朝
…さむい、ね
少女は初めての感覚に戸惑いつつも、
両の手にハアッと息を吐かけた。
その手の甲に刻まれた、
所有者の印と、ナンバーが痛々しい。
夜通し、工場から走った。
昼も夜もなく働かされ、
食事も満足に貰えない。
監視の目を盗んで、
隣のブースの少年と話した。
ー北に北に歩いてゆくと、
大きな湖があって、
じゆうのくに に行ける舟が出てるんだよ。
湖も、じゆう の意味も
わからなかったけれど、方角は分かった。
さむい。
体からエネルギーが奪われてゆく。
視界も霞む中で、突然平原が切れた。
きっとこれを湖というのだろう。
小さな手漕ぎの舟と、渡し守。
ー行くのかい?じゆうのくにへ。
少女はこくこくと頷(うなず)くと、
舟へと倒れ込んだ。
渡し守は、静かに櫓を漕ぐ。
じゆうを求める、
1人のアンドロイドを乗せて。
11/28/2025, 11:52:58 AM