まこここ子

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 色彩が鮮やかだった最後の記憶である。塗りつぶしたのは赤色で、それも深く暗い色の液体が、生温さとほんの少しの粘性を持っていた。ポンプから押し出された先に、あるはずの管が無く、そのままの勢いで噴き出されていて、私の頬とドレスと脳裏にじゅくじゅくと侵略をかけていた。
 つまるところ、私の目の前で死んだ。出血多量である。いわゆる公開処刑というもので、王族はギロチンで処刑されて、その生首を晒し者にされる。「民の血税で贅沢を食らった罪」として、「愚者であるのに政に携わった罰」として、王は首の断面図を民衆に示していた。
 尊厳が崩れていく。気高く美しかった王の血は、一般市民と代わらぬ赤色である。優しさと志の高さを併せ持った王の骨は、刃物で切られる白色である。王の服は汚れ、靴は擦りきれ、王冠なんてものは逃亡生活の途中で紛失している。かつての富と権力の象徴などという概念はもはやその人間には乗っておらず、ただ一人の肥満体系の中年が死んだ。それだけだった。

 それをそう認識してしまったのが、私の色彩の終わりであった。革命などには抵抗の意を示し、王はこの国の神である、などと思い上がったような思考を持っていた私を、つまり王に拾われてからの20年間を全て否定され、打ち砕かれたことが、私の色彩の終わりであった。今はただ、民衆の口から発せられる罵詈雑言を受け、灰色の薄汚れた服を着る処刑人たちに、王に拾われる前の自分を重ねるだけであった。
 ああ、まだ見ぬ景色。「私のなかのあなた」がいなくなった景色は、どうしてこれほどの受動的な白色を携え、さらりと爽やかに私を撫でていくのですか。王族どころか貴族でもなかった私は、縛り首で苦しみ抜いて、冬の訪れるようなこの気分で、人へと堕ちてしまったあなたのもとへ、今向かいます。

1/13/2025, 12:47:28 PM