赤い糸
運命の赤い糸、などと云う言葉があります。曰く、幸せに結ばれる男女の小指は、赤い糸で繋がれて居るのだと。それはよく出来た比喩表現で、そのような小説に使われるのを頻繁に見掛けます。
現実、赤い糸というものはそこに在りません。どのように思いつかれた比喩であるのか分かりません。しかし、とても美しい表現である事は間違いないのです。
もし赤い糸が実在するのであれば、私のそれは確実に彼女と結ばれていたでしょう。事実、私たちは運命の如く惹かれ合い、糸の如く結ばれ、共に在るのです。
しかし、御伽噺の様な幸せというものは、此処には在りません。互いに惹かれたのは、互い以外があまりに醜く、共に在ることが息苦しかったためです。その様な世界は生きるだけでも苦労します。私たちは互いに大きな希死念慮を抱き、且つ大きな生存本能を抱いていました。死にたいと思い、死ぬのが怖かったのです。
私たちが心中を決意した時、真っ先に用意したのは真赤な糸でした。手の届かぬ御伽噺を真似る様に、小指を赤い糸で繋いで心中しました。
彼女は死に、私は死に損ねました。
赤い糸はぷつりと途切れて仕舞ったのです。
運命とは非情で、此処に私は生きています。
6/30/2024, 12:29:40 PM