イオリ

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星空の下で

 ブランコを静かに揺らして待つ。聞き慣れたスニーカーの足音がやってきた。

 遅い。

 ごめん。猫が起きちゃって。 そう言って彼女は隣のブランコに座った。

 幼なじみだ。幼稚園からずっと一緒。中2ぐらいから、夜中に抜け出して公園で会うようになった。何をするわけでもない。学校のこと、好きな音楽のこと、ゲームのこと、そんなことをダラダラとしゃべるだけ。高校生になってもこの習慣は続いていた。

 
 あのさ、 彼女が珍しく神妙に切り出した。

 やっぱりだめっぽい。

 離婚?

 うん。

 そっか。

 前に1度だけ、この話が出た。父親の不倫が原因らしい。僕はなんと言っていいかわからず、今みたいに、そっか、とだけ返したと思う。

 よくある話よね。

 うん。

 こういうの他人事だと思ってた。

 うん。

 うん、ばっかり。

 うん。

 そこからしばらくは無言だった。ブランコの軋む音がいつもなら鬱陶しいのに、今日はなぜか有り難く感じた。間をつなぐ唯一の存在だったからかもしれない。

 時計を見た。午前3時。いつもの解散の時刻だ。
 
 3時ね。 彼女が先に立ち上がった。

 じゃあまた。

 なあ。

 ん?

 相手の女、殺してやろうか。

 彼女が目を見開いて固まった。が、すぐ笑顔を見せ、

 じゃあお願いします。と答えた。

 何くれる?

 んん、じゃあパン。くるみパン。

 殺しの報酬がくるみパンかよ。

 うん。今日作ったの。お母さんと。

 ……そっか。じゃあそれでいい。

 うん。明日学校に持って行く。

 彼女は背を向けて歩き出した。が、すぐ立ち止まって空を見上げた。
 
 悪巧みって、やっぱり夜にするんだね。

 明るい声だった。表情はわからなかった。今夜は月もない。有るのは青白い星だけ。シリウスだろうか。まあ、なんでもいい。

 じゃあ。

 ああ。

 彼女が去って行く。

 僕は彼女の足音が聞こえなくなるまで、ぼんやりとブランコを揺らしていた。
 

4/6/2024, 2:12:47 AM