落下
手足が上に向き、体が浮いている感覚から、俺は落ちているのだと理解する。
下を見ても、底がない。ように見える。あるのかもしれないが、真っ暗で判断ができない。
ハハ。これは夢なんだろうな。こんなことが現実にあってたまるか。どうせ夢だ、すぐ目が覚めるかシーンが変わるだろ、と楽観的なことを考えながら落下し続ける。
そういえば俺の人生も落ちてばかりの人生だったな。恋に落ちたり、行きたかった学校に落ちたり、そこから何もやる気が無くなって、周りから責められる……いわば地位が落ちた、というやつ。……流石にこじつけが過ぎるか。
俺、何もしてこなかったよなあ。どうせと言い訳して逃げてばかりで。目から覚めたら、少しは何かに挑戦してみるか。この夢の内容を覚えているかどうかはさておき。
落下しているせいなのかネガティブなことを考えてしまう。しばらくすると、辺りが明るくなってくる。ようやく目覚めるだろうか。ずっと暗いところから急に明るいところになるため、眩しくて目をつぶる。
目を開くと、無機質な白い天井。周りには見慣れない機器と切迫した表情の家族。俺に気づいたのか、慌てて誰かを呼ぶ。白衣を着た人物が駆けつけてくる。
……なんだ、まだ夢でも見てるのか。もう一度目をつぶる。
「……きて……! ど……して……あなたが……んな目に……!」
母さんがなにか話しているけど、こんな泣きそうな声を聞くのは初めてだ。
「……ちついて……さい!」
母さんと知らない人の声を聞いたまま、俺はまた眠りに落ちた。何だか夢の中で寝るってのも不思議な話だが。
6/19/2023, 10:04:00 AM