『白い服』
ぴょんぴょんぴょん。まっ白な体に大きなお耳。ゆったりと垂れたグレーのお耳は走る度にぴょんぴょん跳ねる。
「風も気持ち良くて、走るのにぴったり!」
その大きなお耳を持つ彼女は、今日も大好きなお花畑の中を元気に駆けていた。
するとそこに、あまり見慣れぬものが落ちていた。優しいベージュに大きな真っ黒のリボンが付いたそれは、お花畑の片隅に、けれど、妙に目立って落ちていた。
「これはきっと、あの人間のものだわ!」
彼女は何度か黒い服の人間を見かけていた。ここに人が来ることはとても珍しいのに、最近は黒い服の人間達が来るようになった。一人帽子の人間は、お花を踏まないようにとゆっくりと歩いた。彼女を見つけた時も、他の人とは違い、優しく穏やかに微笑んだ。
「またあの人が来たら、ここに君の帽子が落ちているって教えてあげよう」
それから彼女は毎日お花畑で彼が来るのを待っていた。
季節は移ろい、少し肌寒くなった。
「あの人はもう来ないのかしら。」
冬になれば、その帽子も雪で埋もれてしまうだろうと彼女は少し寂しく思った。
その時、遠くに白い服を着た人間が見えた。服装は違ったけれど、すぐに彼女は駆け寄った。人間は彼女を見つけると優しく微笑み、
「久しぶり」
と、 そう言った。
彼女は嬉しくなって、人間の周りを元気に走り、そして、帽子のところまで駆けて見せた。人間も、ゆっくりと彼女の後に着いてきて、その帽子を見つけて驚いた。
「君は、これを僕に教えてくれたのかい?ありがとね。」
そう言うと、彼女の頭を優しく何度も撫でた。
また暖かい季節になった。あれから、人間は1人も来なかった。穏やかなお花畑には蜂や蝶が自由に飛びまわり、彼女も元気に駆けていた。
「また会えるといいな。」
そんなことを少し考えて、再び風を切るように軽やかに跳ねた。
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テーマ『麦わら帽子』
8/11/2024, 10:08:49 PM