テーマ『曇り』
「ひと雨来そうですね」
ふらりと訓練所にやって来た軍師は、兵士達の鍛錬を見て回ったのちにそう呟いた。
「そりゃ、こんだけ曇ってればな」
鍛錬の休憩で、その軍師の近くにたまたまいた俺は空を見上げる。「今にも雨が降り出しそう」という形容がぴったりの曇り空。戦いばかりで頭のいい方ではない俺でも分かる。
「ああ、それもありますが、私が言っているのはそういうことではなく」
「は?」
含みのある言い方に軍師の方を向けば、感情の読めない瞳が視界に入る。
俺は軍師というものが苦手だ。自分では戦わず策だなんだとあれこれ小難しいことをやったり、今みたいによく分からないことを突然言い出したりするところが。
「まぁ、大したことではありません。では、私はこれで」
そう言うと軍師は来たときと同じように、ふらりと訓練所から出ていった。何しに来たんだ。
「……意味が分かんねぇ」
その言い方に若干ムカつきはしたものの、頭のいい奴と口喧嘩をして勝てる見込みがないので言い返しはしなかった。決して負けた訳ではない。
このモヤモヤした気分は体を動かして吹き飛ばすに限る。
そう思って椅子から立ち上がったところで、雨が降り出した。
3/23/2025, 11:17:51 AM