今宵は宴だ、騒げや歌え、朝日が昇るまで。
そんな気前の良い声が外から聞こえる。しかし、これは一人前だと認められたものだけの宴。残念ながら私はまだ参加することは叶わない。いや、叶わない方が良いのかもしれない。
「外が気になるの?」
気がつくと、彼女の声が私の背後から聞こえた。暗い窓には彼女の顔があった。
「外は真っ暗だよ?」
彼女の顔が大きくなると、その顔は私の横へと押し込まれいた。狭い。しょうがなく私は窓の方ではなく、横にある顔を見た。私とは似ても似つかない彼女だが、私たちは姉妹だ。
「今日も可愛いね。」
彼女はそう言って笑った。当然至極のことだ。そして、私の姉なのだから彼女も可愛いはずだ。しかし、当本人はその自覚が足りないらしい。彼女はときどき酷く泣き、落ち込む。理由は明確ではないが、彼女は威厳や自信というものが足りないのだ。この私の姉という肩書きをもう少し誇っていただきたいものである。
「ねえ、今日もいっぱい失敗しちゃった。」
彼女の声が少し震えていた。
「頑張っても頑張っても上手くいかないんだよ。」
そう言うと、私に抱きついてきた。私は少々口下手なゆえに、ただ黙って彼女に抱きつかれることにした。
「疲れちゃった。」
疲れは生きるに当たり生存確率を下げる。生きるということは大変であり、疲れで様々な危険因子への回避が遅れるなんて死活問題に発展しかねない。外にはいろんな危険があるというのは誰もが知っている。私は過去に友人を失った。だから、私は不安なのだ、彼女が友人の二の舞にならないかが。
「休め。」
私はそう言った。すると、彼女はただ笑った。外は未だ賑やかだが、夜がだいぶ深くなり彼女は寝床に入った。さらに時間が経てば、彼女の寝息が聞こえてくる。すると、それを見計らったように窓の外に奴が現れた。
「やあ、元気かい。お前も早く宴の参加しないか。」
彼は相変わらず意気揚々と私の前に現れる。
「断る。」
私の不遜な態度が気に食わなかったのか、彼のにやつき顔が少し強張った。
「そんな歳だけ食って体の節々が痛いのじゃないか?さっさと餓鬼とごっこ遊びなんか辞めちまえ。姉より歳上な妹役なんて滑稽にもほどがあるぞ。」
彼の2つに割かれた尻尾がガラスの向こうで揺れている。
「彼女はまだ子猫なんだ。つまり、私が必要だと言うことだ。」
私はあの尻尾から目を外した。そうすると、彼はすかさずまた口を開ける。
「そこまで入り込んでるとはな。」
「友人と共に死を覚悟したときに救ってくれたなのは彼女なのだから、この生を彼女に捧げるのは当たり前だ。」
私は軽く唸り、牙を輝かせた。だが、彼は気にも留めいない様子だ。
「落ち着け。半人前。お前の友人もこちら側で待っているかもしれないぜ?尻尾が割けるほど長生きしなくたって、猫は猫だ。親睦を深めようじゃないか。」
彼はガラスを抜けようと、その足をこちら側に入れる。
「焦るではない、自称一人前よ。いつかはそちら側に訪れて、あんたと酒を酌み交わしてやっても構わない。だが、今ではない。この子猫には時間が必要だ。」
私がそう言うと、彼の足はガラスの向こう側と引っ込む。こうは言ったものの、何が彼を止める要因になったのか分からず、少しの驚きと混乱が私の中に混ざり合う。幸いなことに、これらの感情は私の顔には表れなかった。
「お前の友人から恥ずかしい話を聞いて、酒のつまみにしてやるよ。」
すると、私の瞬きと同時に彼の姿は消えていた。疲れた私は窓辺から離れて、彼女の寝床に入り込む。子猫のように丸まった彼女の手足は冷たかった。しょうがなく私はその手足を温めてやることにした。
外はまだ騒がしい。
11/15/2024, 2:03:24 PM